『「働き方」の教科書:人生と仕事とお金の基本』、出口治明著、新潮文庫、2017年。

著者は1948年のお生まれです。

元「日本生命(日本生命保険相互会社)」の重役であり、現在は、独自に創設された「ライフネット生命保険社」会長でいらっしゃいます。

お書きになった本書は、ビジネス界の先達として勤労者たちにアドバイスする内容でした。

一般に、この種の読み物は若いかたを対象にしている場合が少なくありませんが、『「働き方」の~』は20代から50代までの相当広範囲な年齢層に向かって語りかけています。

貴重なご助言が頻出し、納得がいくご指摘もふんだんでした。

わたし自身とても参考になりました。

たとえば、著者は残業過多に反対のお立場で、

若いうちは残業(長時間労働)が当たり前だと主張する人もいるようですが、長時間労働で生産性が上がったというレポートは、いまだに一度も目にしたことがありません。むしろ、翌日の仕事の効率が下がるというデメリットのほうがはるかに大きいはずです。(中略)
たくさん食べて、たくさん寝て、たくさんデートして、スッキリした気分で集中して8時間前後働く。これが生産性が向上する(=良い仕事ができる)いちばんいい方法です。(pp.37)

以上のように述べておられます。

わたしとしては心から賛成するご意見です。
わが長崎メンタルヘルス社は、設立以来、出口氏の会社と同様の方針でやっているところです。

つぎに、氏はなにしろご自身が起業家ですので、あちこちのページで読者に起業をお勧めになっています。

とりわけ50代の人々に対してご熱心でした。

「起業なんて失敗するに決まっているんだから、やめておけ」
まったくナンセンスだと思います。そんなことを言う人は、決まって自分が起業したことのない人たちです。(中略)
50代ほど起業に向いた年齢はないと断言できます。50代はリスクがほとんどコストに転化されていて、幅広い交友関係があり、お金の借り方もわかっていて、それなりに目利(めき)きの力もあるからです。(pp.197)

ここで使われているリスクとコストの語は、リスクが「費用が明確でないことによる危険性」を、コストが「明確となった費用」を、それぞれ意味しているみたいです。

50歳代後半に小さな会社を興したわたしにとって、改めて勇気づけられるご発言でした。

最後に、本書では随所に歴史・古典からの引用や引例が散りばめられています。
著者は深い教養を身につけられていると感じました。

事実、比倫を絶した読書家でいらっしゃるようです。

論の進めかた、そしてご自分の体験の述懐などから、誠実・正直なお人柄も窺えます。

経営には教養も人柄も肝要であることが図らずも浮き彫りになりました。

結論として、わたしたちは誰しも、折に触れ、前を行く人物からの導きを希求する局面をもちますが、この本は、今そうした局面を迎えている人には格好の一冊たり得る、といえるのではないかと思いました。

金原俊輔