『夫婦で行く東南アジアの国々』、清水義範著、集英社文庫、2018年。

清水氏(1947年生まれ)は高名な小説家です。

タイトルをうっかり失念してしまいましたが、以前、わたしは氏のエッセイ集を読み、大笑いした記憶があります。

それで上掲書のページも、ワクワクしながら開きました。

わたしは東南アジアのファンなのです。

しかし残念ながら、読書を通して、特別楽しい気もちは生じてきませんでした。

著者と奥様は数年間のうちに、ミャンマー、タイ、ラオスなど、東南アジアの全7カ国を訪ねられています。

ほぼ毎回、ツアーをご利用されました。

そのせいでしょうか、本書で紹介されたいろいろな見聞談は、同じツアーを利用し同じ順序で同じ場所を回らないかぎり、読者の役に立たないようです。

感興もあまり催されません。

ツアーであるがためにハプニングがほとんどなく、訪問した東南アジア諸国のかたがたとの交流も限られていたためです。

おまけに、ところどころに書かれていたご夫婦同士の会話すら、なんだか芝居の台詞を棒読みしているかのような印象を受けました。

「少々期待はずれの本だった」と言わざるを得ないです。

それでも、わたしにとって嬉しい話題、なつかしい話題が、書中随所に含まれていました。

ベトナムでは、

美しい砂州と青い海の広がるランコー村のランコー・ビーチ・リゾートで休憩した。ベトナムコーヒーが出たが、深煎りな感じで香ばしい。練乳を入れて飲むのが特徴で濃厚な味わいだった。(pp.236)

これは「カフェ・スアダー」と呼ばれ、わが半生で最も多量に喫したコーヒーです。

大好きです。

マレーシアの国家記念碑については、

アジアにある国の独立記念碑がテンガロンハットをかぶったイギリス人傭兵で表されているのは、どうしても不自然な感がいなめない。マレーシア人はこの独立記念像でいいと思っているのだろうか。(pp.353)

わたしも同国で似たような感想をもちました。

本書では各国の歴史が予想以上にくわしく説明されており、そちら方面の興味はじゅうぶん満足させてもらえます。

最後の短い「あとがき」においては、グイッと深い考察が述べられ、著者の作家としてのお力を感じました。

金原俊輔