『老後破産:長寿という悪夢』、NHKスペシャル取材班著、新潮文庫、2018年。

わたしはひとり暮らしです。

年齢は(まもなく)63歳。

上記のようなタイトルの書籍を見かけたら、自分に役立つ情報が含まれているのではないかと期待し、つい買ってしまいます。

そして本書のページを繰りだしたところ、深刻な内容で、副題の「長寿という悪夢」の語が重くのしかかってきました。

晩年にいたってお金の不足に悩む人々が増えており、当事者たちの日常はかくも悲惨である、こうした状況が叙述されたノンフィクションです。

田代さんを担当していた港区の相談員、松田綾子さんは社会福祉士の資格を持つ物腰の柔らかい女性だった。
「ひとりで訪問していて、大変な目に遭うこともあるのですか」
松田さんは笑顔を絶やさず、苦労は当たり前よ、と答えながら経験談を話してくれた。
「玄関先でいきなり、帰れ、と怒鳴られることだって珍しくないんですよ。もう慣れてしまいました」(pp.41)

わたしはアメリカに在住した約10年間、この松田さんと同じ仕事をおこなっていました。

カリフォルニア州サンフランシスコ市の日系高齢者養護施設「気持会」に所属するソーシャル・ワーカーだったのです。

当時のわたしは30歳代。

元気に市内あちこちのお宅を訪問していました。

それがいまや、着実に田代さん(83歳、男性)のご年齢に近づいているわけです。

田代さんは、学校を出られたのち、東京のビール会社に就職し、ウェイターさらには経理のお仕事をなさいました。

40歳を過ぎた時期に独立して居酒屋を開業。

残念ながら、お店がうまくゆかず、10年ほどで倒産しました。

爾後、生活保護に関する知識をおもちでなかったため、長期にわたる極貧を経験されました。

現在は月額10万円の年金(国民年金と厚生年金を足したもの)を受給している状態です。

電気すら使用できない切り詰めた毎日。

ご家族はおられません。

本書では、田代さんの件に限らず、幾話ものつらい事例が紹介されました。

『老後破産』を読み終え、自身にも類似のことが起こるのかどうか今のところわかりませんが、できれば起こってほしくないので対策を講じておかねばならない……、こんな心境になります。

苦境にあえぐ現下の高齢者たちを社会はもっと支援すべき、という気もちも当然生じてきました。

年金制度を検討する箇所で、

ひとり暮らしの場合、ひとり分の年金で暮らしていかなくてはならない。
その前提が制度にそぐわないと指摘しているのが、前出の明治学院大学の河合克義教授だ。「国民年金は制度自体、ある程度、家族機能がはたらくことを前提につくられたもの」と指摘している。(pp.132)

とのご意見が述べられていました。

考えられることです。

政府立法・議員立法どちらであってもかまいませんから、国に種々ご対応いただきたいと願わざるを得ませんでした。

本書は、NHKが2014年に放送したルポルタージュ番組を元に、書きおろされた作品です。

そのため、たしかに世の中の傾向が反映されているとはいえ、特殊性が高くないとはいえず、ややセンセーション狙いの気配も感じられました。

日本福祉大学教授の藤森克彦氏が書かれた「解説」のほうは、客観的であり普遍性もあって、わたしには参考となります。

金原俊輔