『戦国武将の精神分析』、本郷和人、中野信子共著、宝島新書、2018年。

歴史学者の本郷氏(1960年生まれ)と脳科学者の中野氏(1975年生まれ)とがおこなった対談です。

テーマは、戦国時代の著名人たちにまつわる各種エピソードならびにエピソードの心理学的な解釈。

毛利元就(1497~1571)はセロトニン不足だった、織田信長(1534~1582)の場合あきらかにサイコパス、淀殿(1569~1615)は元祖「毒親」なのでダメ……、こんなやりとりがなされました。

両者がそれぞれの専門知識を背景にしつつ上述の会話に興じられるのは、知的な遊びであり、遊びにつき合う読者側も楽しめて、よい試みと思われます。

中野氏は脳科学者ながらも豊富で正確な心理学の知識をおもちでした(タイトル内にあった「精神分析」の語は、ご発言にほとんど精神分析の視点が入っていなかったため、苦情を招くかもしれない、と気にはなりました)。

しかし、個人的な希望をいえば、本郷氏が語られる歴史の逸話が興味ぶかく、脳科学・心理学の解説より、もっとたくさん歴史談義のほうを読ませていただきたかったです。

たとえば上杉謙信(1530~1578)に関し、

本郷  だから家来がついてこないですね。信玄に「武田二十四将」がいたように、謙信にも「上杉二十四将」と呼ばれるような家臣たちがいてもおかしくないんです。(中略)でも謙信にはそういった家臣団がいない。謙信の家臣たちはみんな裏切りますから。(pp.181)

伊達政宗(1567~1636)の項では、

本郷  ところが、どうも調べていくと政宗には二面性があって、「政宗って、肝心の戦がそんなにうまくないぞ」という話になってしまいます。政宗は、秀忠や家光に「私はこんなに頑張ってきたのです」と言いますが、スカッと勝ったことは1回しかないんです。天正17年に蘆名義広(あしな・よしひろ)と戦った摺上原(すりあげはら)の戦いの1回だけですね。(pp.29)

こうした、わたしのような歴史の素人が知らなかった話題が、いくつも登場してきたのです。

『戦国武将の精神分析』が与えてくれる情報を享受しました。

もっとも、

本郷  そうですね。僕は、コメンテーターもどきの仕事もしていますが、トランプ大統領と安倍首相の関係を「織田と徳川の清洲同盟に近いんじゃないか」ってことを言ったことがあるんです。要するに「超大国アメリカ=織田」という、まあ安倍さんにしてみれば、ついていくしかないですよ。
中野  すると、「今川家=中国」といったところですね(笑)。(pp.47)

史実に基づき現在を見るという手法は、わかりやすい反面、一歩まちがえたら歴史知識を振りかざしながら自分や社会のことを云々する(年配男性においてめずらしくない)浅薄な行為に近づいてしまいます。

本書はそこまでには陥っていないものの、危ういところだった、と感じました。

金原俊輔