『AI時代の新・ベーシックインカム論』、井上智洋著、光文社新書、2018年。

「AI」とは「IT(情報技術)」の一種で、人工知能のこと。

上掲書ではロボットなども含む語として用いられていました。

ベーシックインカムとは「収入の水準に拠(よ)らずに全ての人々に無条件に、最低限の生活を送るのに必要なお金を一律に給付する制度(pp.6)」です。

書中、しばしば、略して「BI」と表現されました。

井上氏(1975年生まれ)は、日本の全国民へ毎月ひとりにつき7万円を支給するベーシックインカムを想定しつつ、以下の議論を展開されています。

氏におかれては、

(1)今後、AIの進化が日本の雇用情勢に深刻な悪影響をあたえる

(2)「AIはそれほど雇用を奪わないし、失業率も高めない、だから心配はいらない」という言説があるが、正しくない

(3)ベーシックインカムを導入していさえすれば、雇用情勢が悪くなっても、国民の最低限の生活は保障される

(4)ベーシックインカムが受給者の勤労意欲を衰えさせることはない

(5)ベーシックインカム用の財源として、老齢年金、子ども手当て、雇用保険、生活保護費、などを充てればよい

(6)つまり、老齢年金、子ども手当て、雇用保険、生活保護費、は廃止する

(7)上記(5)の方策でもまだ財源は不足するものの、不足分は高額所得者たちへの増税による収入でまかなう

こうお考えでした。

ご自分の主張をさまざまな研究やデータを援用しながら述べておられ、理路整然とした語り口と感じました。

わたしにしてみれば「初耳」である話ばかりでした。

本書のような(心理学者にとって)専門外の書物を読むと、自分がまったく知らないところで、まったく知らない事柄が検討されている事実を、あらためて知ることができます。

勉強になる本でした。

ベーシックインカム、なんだか良さげな案です……。

読了後、三つの感想をもったので、記します。

まず、

イランやアメリカのアラスカ州などでは、政府が石油などの天然資源から得た収益を国民に分配しており、これもBI的な制度として位置づけられる。(pp.22)

位置づけられるのですね。

わたしが暮らす長崎市は、江戸時代、海外にひらかれた貿易都市でした。

徳川幕府は貿易によってかなり潤った模様です。

そこで幕府は、貿易への協力を嘉賞して、毎年すべての長崎の町人に「箇所銀(かしょぎん)」「竃銀(かまどぎん)」と呼ばれるお金、5万円から25万円ぐらい、を分配しました。

いわばベーシックインカムだったわけです。

おかげで、長崎では住民に余裕ができ、その結果「ペーロン」「精霊流し」「おくんち」などのイベントが盛んになった、いっぽう、九州の他地域の人たちに比べると長崎人のハングリー精神は弱まってしまった、と指摘している史書を読んだ記憶があります。

つぎの感想。

各家庭の電気使用量をチェックし、電力会社に報告する「検針員」というお仕事がありますが、

2020年には「スマートメータ」という機械が日本のほぼ全家庭に普及し、それが自動的に電気使用量を電力会社に送信するようになる。(中略)検針に従事する人々は、2020年には解雇になると既にいい渡されている。(pp.139)

の由でした。

科学技術の進捗にともなう失業がここにも現われており、ショックをおぼえます。

最後の感想です。

『AI時代の~』第5章「政治経済思想とベーシックインカム」は、第4章までとは違い、裏づけとなるデータがじゅうぶんとはいえず、そして主観的に過ぎる内容で、著者の博識ぶりのみが誇示されていました。

井上氏がなぜこの章を設けられたのか、わたしには意図がわかりませんでした。

金原俊輔