『司馬江漢:「江戸のダ・ヴィンチ」の型破り人生』、池内了著、集英社新書、2018年。

司馬江漢(1747~1818)。

わたしはこの人に関する知識をもっておらず、

新戸雅章著『江戸の科学者:西洋に挑んだ異才列伝』、平凡社新書(2018年)

を読んだ際に、彼についての簡潔な紹介があったおかげで、はじめて存在を知りました。

「もっとくわしい伝記があれば読みたい」と考えていたところ、今回、本書『司馬江漢』が出版されました。

ありがたかったです。

主人公は、町絵師、そして(当時は「蘭学」と呼ばれていた)西洋科学の最新情報を江戸期の人々に伝えた、多能な人物でした。

絵師としての技術は高かったようで、浮世絵から西洋画までを自在に描いていました。

とくに、苦心の結果、西洋風の銅版画にも熟達し、世間をうならせた模様です。

そうした点では、当人をイタリアのレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)になぞらえたとしても、まあデタラメな的外れではないでしょう。

しかし、西洋科学のほう。

こちらはダ・ヴィンチに遠くおよばず、江漢自身が何かを発明・発見した形跡はありません。

海外の書籍から得た知識をかみ砕いて人々に教えていただけです。

つまり「科学解説者」だったわけです。

いまの日本には竹内薫氏や須田桃子氏というサイエンス・ライターがいらっしゃり、科学にうとい身にとって非常に助けとなる執筆者たちなのですが、おそらく司馬江漢も往年そのような立ち位置にあったのでしょう。

江漢の性格は狷介、そのうえマイ・ペース。

62歳になって以降、実年齢を9歳上回る年齢を詐称しだしたり、生きているにもかかわらず関係者らに自分の死亡通知を配ったりするなど、突飛な言動を示しました。

反面、母親に敬慕の念を抱きつづけたことや、旅行中に妻子を懐かしみ再々ホームシックに陥ったりしたことで、なかなかの人間味も感じさせられます。

家族愛が強いタイプだったみたいです。

友人関係だの同僚関係だのは、あまり安定していませんでした。

社会に「一匹狼」として対峙していた異才です。

以上、『司馬江漢』書は、知らなかった人の人生を知悉するという収穫にいたった、価値ある一冊となりました。

著者(1944年生まれ)に感謝いたします。

ところで、江漢はタバコ嫌いだった由。

彼が述べたタバコ批判のなかに、つぎの文章がありました。

タバコは天正の頃、外国人が持ってきたものである。長崎の桜の馬場にそれを植えたのが始まりで、ついに天下に流行するに至った。今その流行ぶりを考えてみれば、長崎の者は十人いればそのうち三、四人はタバコを吸う。京では十人のうち七、八人が吸う。江戸の者なら十人のうち九人が吸う。その吸う量たるや実におびただしいものである。奥羽の人なら十人中十人ともみな吸うし、さらに蝦夷の国まで行けば、これを噛むのである。(pp.249)

これは、わたしが住む長崎市を尊敬しながらのコメントで、要するに、長崎という文化的な土地から離れれば離れるほどスモーカーが増える、と主張しているのです。

期せずしてわが地元へのリスペクトに接し、しかも、わたしは長崎市立桜馬場中学校の卒業生ですから、嬉しく思いました。

金原俊輔