『きまぐれ体験紀行』、星新一著、角川文庫、2019年。

ショートショートで知られる星新一(1926~1997)が1985年に出版した本を、2019年、KADOKAWA社が改版し同じタイトルで発行したものです。

わたしは星の作品を相当数読んだ関係で「もしかしたら、むかし目を通したことがあるかもしれない」と心配しつつページを開きました。

よかった、今回が初めてでした。

『きまぐれ体験紀行』は著者が作家仲間たちとご一緒に海外旅行をした際の体験談。

訪問先は、ソ連(ひさしぶりにこの国名に接しました)、フィリピン、シンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、香港、台湾、韓国、以上9カ国でした。

著者特有の、無駄がなく、落ち着いた、漢字が少なめの読みやすい文章を用い、異文化における種々のできごとを語っておられます。

フィリピンでは「心霊手術」をお受けになりました。

悩んでいた「頸肩腕(けいけんわん)症候群」を改善したいというご希望があったからです。

だめでもともと、なおればもうけものである。(pp.43)

その結果は?

心霊手術などよりも、

専門医の診断をお受けなさい。そして、その指示する療法に従うこと。それでもだめなら、医師の了解を得て、ハリ、灸(きゅう)、漢方薬などをこころみ、気ながにおつづけ下さい。(中略)
成果を期待して、金と時間とをむりにつごうし、フィリピンに行こうとなさるのだったら、おやめなさいと申し上げる。(pp.60)

常識的アドバイスにいたりました。

好奇心旺盛な著者は、香港と台湾では多数の占い師たちを訪ね、ご自分の人生を占ってもらっています。

台湾の、辛さんというお名前の「中西星象学」家の場合、

いよいよ発言となる。
「ユニークというか、特質的な才能があり、どんな仕事をしても、一般の人とちがった処理をする能力の主である。オリジナルな知恵があり、これが生れつきの条件となっている」
はじめてこの人に占ってもらっていたら、私は飛び上っていただろう。(pp.105)

うーん。

星先生、辛さんの言葉はだれもが「自分に当てはまる」と受けとめがちな内容を含んでいますよ……。

辛さんにかぎらず、どの占い師のかたがたも、的中したり、すこし近かったり、見事にはずれたり、でした。

まあ当然でしょう。

最後に、わたしが「さすがに星新一だな」と感心したのは、1978年の韓国旅行後、同行者たちとおこなった鼎談です。

韓国の音楽のすばらしさと言ったら、ないですな。(中略)
シャンソンなんかよりはるかにすごいもんじゃないかと思いますよ。日本の歌なんぞよりデリカシーとか、歌い方とか言う点で、何段階も上という感じで、韓国の歌謡曲というのは、世界的にも水準がかなり高いんじゃないですか。演歌というよりはポップスな感じでね(後略)。(pp.183)

こう発言されました。

わたしは「K-POP(ケイ・ポップ)」なる楽曲を聴いたことこそないものの、現在、それが世界を席巻している事実ぐらいは知っています。

約40年前の星のコメントに合致する現象でしょう。

すごいです。

彼は音楽に造詣が深かった人ではありませんので、おそらく創作家の感性を駆使して韓国音楽を味わわれ、高評価なさったのだろう、と想像しました。

金原俊輔