『社会人4年目、転職考えはじめました』、えりた作画、イースト・プレス、2018年。

日本のマンガはジャンルが広大で、広いジャンルのなかに、マンガ家たちが自分の個人的体験を描く私小説っぽい分野があります。

「私漫画」と呼ぶそうです。

私漫画であつかわれるテーマは、家族、友人、ペット、学校時代、趣味、国内外旅行、食事や料理、健康や病気、スポーツ、資格取得、などと多彩。

このうち、わたしが最もたくさん読んできた私漫画は、たぶん、マンガ制作の大変さを打ち明けたマンガ家さんたちの裏話ものだと思います。

つぎに多いのがビジネス関係です。

標題作は広告業界が舞台のビジネス私漫画でした。

もちろん作者が主人公で、主人公の名前は作者と同じ「えりた」です。

新卒で広告代理店に入社し、求人情報誌の営業を担当する女性の、健闘・苦労・迷いが描出されていました。

作者はご勤務の時点で営業職およびマンガ家という「二足のわらじ」を履かれていたわけですが、にもかかわらず営業のお仕事のほうに全力投球しておられます。

また、職場内の人間関係にも細やかな配慮をなさいました。

頼りになる社員でいらっしゃったことでしょう。

その証拠に、入社わずか4年目で求人事業部の主任に昇進されています。

すごい……。

お若い主任だったと想像します。

ところが、昇進が2008年「リーマン・ショック」直後だったため、じわじわご勤務先の収益に影が差しだし、ご自身も中間管理職としてのお疲れを上手に処理できなくなりました。

そんな折り、競合する大手の会社が引き抜きの意思を伝えてきます。

このとき初めて「転職」という言葉が頭をよぎった(中略)
何かを変えねばならない気がした(pp.144)

こうなるでしょうね。

あれこれ悩んだすえ、そして「退職願」提出にまつわりひと悶着(もんちゃく)が生じたのち、主人公はくだんの大手企業へ転職します。

すでにえりたさんへの感情移入を終えている読者としては「よかった」と胸をなでおろす結末でした。

絵柄があっさりしており、話が淡々と進行してゆく、読む者を疲れさせないマンガでした。

わたしは子ども時代からのマンガ好きなのですが、大人になって以降は、本書のように大人が登場し大人社会で活動するタイプの作品に傾倒するようになっています。

そういうわたしにピッタリの一作でした。

金原俊輔