『戦略読書日記:本質を抉りだす思考のセンス』、楠木建著、ちくま文庫、2019年。

著者(1964年生まれ)の作品に接するのは初体験でした。

けれども、以前おこなった書評の、

中川淳一郎、適菜収共著『博愛のすすめ』、講談社(2017年)

に登場された関係で、お名前は記憶していました。

経営学・経営論を教えていらっしゃる一橋大学教授です。

『戦略読書日記』は経営者や起業家といったビジネス従事者たちに役立たつ各種読物の紹介と解説。

非常に有益な内容でした。

菊池誠著『日本の半導体40年』、内田和成著『スパークする思考』、笠原和夫著『映画はやくざなり』など、全21冊があつかわれ、楠木氏はどの書籍にたいしても「ここまで深く掘り下げるのか」と言いたくなるぐらい突っ込んだ分析をなさっています。

わたし的には、取りあげられた一冊一冊より、氏が書物を読むお力に感嘆をおぼえました。

右記は「本を味わい尽くされている」という意味合いなのですが、つい、牛の反芻(はんすう)を連想したほどです。

反芻っぷりがすばらしかっただけではなく、読者に語りかける文章も明快で、魅了されました。

「指南書」というのはそういうものだ。ところが、その分野にまるで関心がない人にも面白く読ませてしまう指南書がごくまれにある。個人投資家向けの株式投資の指南書、『ストラテジストにさよならを』はまさにそういう本である。(pp.148)

本書にこそ当てはまる言葉でしょう。

著者はとうぜん経営についても多彩なアドバイスをお書きになっており、

戦略の目標は長期利益である。この一瞬だけ儲けましょう、という話ではない。(中略)
だから、戦略論の行き着くところは常に「模倣障壁」の問題になる。ようするに、他社が追いかけてきても違いを維持するための障壁をいかにつくるかという話だ。(pp.52)

これなどは肝に銘じておきたい一節でした。

ところで、第21章「センスと芸風」では不意に中身が変わって、ご自分の研究分野だの学術業績だのに関するお話が入り込んでいます。

こういう話題に興味がない人は困惑したかもしれません。

わたしの場合は長く大学に勤務していた身ですので、大学教員・研究者の「あるある」として、おもしろく読みました。

金原俊輔