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『フルベッキ写真の正体:孝明天皇すり替え説』、斎藤充功著、二見文庫、2019年。

巷間、「フルベッキ群像写真」と呼ばれる古写真が存在する。正式には「フルベッキと塾生たち」とタイトルがつけられた(中略)写真である。(pp.4)

グイド・フルベッキ(1830~1898)はオランダ生まれの宣教師です。

来日し、長崎および東京に住んで、日本滞在中に死去しました。

写真はフルベッキ親子を囲み40数名の侍たちが写っているもの。

わたしが暮らす長崎市ではちょくちょく目にする写真であり、その理由は、まず、当地出身だった幕末のカメラマン・上野彦馬(1838~1904)が市内の新大工町(わが家のすぐ近く)で撮影した一葉であるから。

もっと大きな理由は、写真に、

勝海舟(1823~1899)

大村益次郎(1824~1869)

西郷隆盛(1828~1877)

大久保利通(1830~1878)

木戸孝允(桂小五郎、1833~1877)

坂本龍馬(1836~1867)

伊藤博文(1841~1909)

こうした、江戸時代後期から明治時代にかけて活躍した錚々(そうそう)たる顔ぶれがそろい踏みで写っている、という風説があるからです。

上掲書は、

(1)当該写真に写っているのは、本当に後世に名をのこした著名人たちであるのか

(2)写真内に「後に、明治天皇に『すり替わった』とされる(pp.90)」人物がいるというのは事実なのか

(3)「明治天皇『すり替え』説(pp.252)」の真偽はどうなのか

……おもにこの3点に関して調査・分析した結果をまとめた内容でした。

ミステリー仕立ての歴史ノンフィクションでしたので、本コラムが(1)(2)(3)の答えを教えることはできません。

代わりに、わたしが斎藤氏(1941年生まれ)の厳密な検証作業に感服したことを記します。

まず、氏は証人・関係者を探しだされ、そのかたたちと会われ、役所を訪ね、図書館では古い新聞や書物に当たられて、とにかく精力的な情報収集をなさいました。

訪問先は、かつてロシアの都市だったハルビン、中国の旅順、東京、神奈川、秋田、京都、高知、山口、長崎、など。

長崎県内でも、長崎市と佐世保市さらには五島市へ足を運ばれています。

なんとしても史実を掘り起こしたいという執念を感じます。

むろん歴史知識は豊富でいらっしゃり、著者が提示された史的な話題のうち、わたしがある程度予備知識を有していたのは孝明天皇(1831~1867)の崩御にまつわる不審説だけでした。

読み甲斐とおもしろさを兼ねそなえた作品です。

ただし、

本書は世にはびこる「トンデモ本」ではない。(pp.264)

斎藤氏はこのように述べられましたが、実のところ、『フルベッキ写真の正体』には「トンデモ本」っぽい香りが漂っていました。

書中、ひとつひとつの文章を、もうすこし穏健な書きかたにしたほうが良かったでしょう。

そもそも副題が不正確です。

「孝明天皇すり替え説」ではなく、著者は中身をちゃんと反映させて「孝明天皇暗殺説(pp.127)」あるいは「明治天皇すり替え説(pp.117)」になさるべきでした。

金原俊輔

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