最近読んだ本304

『よみがえる変態』、星野源著、文春文庫、2019年。

わたしは星野氏(1981年生まれ)を存じあげていませんでした。

音楽・ドラマ・文筆方面で幅広く活躍されているかたみたいです。

上掲書を読んでも才能豊かな人物であることが伝わってきました。

氏の日常で起こった小事件や出会った人々の珍談などについて、おおむね軽妙に、ときどき真摯に、記述されています。

うち、最もわたしの心に残ったのは「東日本大震災」に関する一文でした。

『よみがえる変態』は、もともと、雑誌に連載されていたエッセイ。

その連載中に大震災が発生しました。

この原稿が書籍になるとしたら、約3年後。文庫になるとしたら6年後、いやもっと先かもしれない。その頃にはもっと事態は明るくなっていると思いたい。この文章を読んだ人に、「東日本大震災? 見事に乗り越えたよ」と笑ってもらいたい。でも、そうなっていないかもしれない。今読んでいるあなた、最近東北はどうですか。まだテレビでは報道されていますか。放射能問題は解決しましたか。あの震災以降の怒涛(どとう)の1週間がいかに絶望的だったか憶えていますか。そしてそれを今は前向きなものとして昇華できましたか。(pp.19)

大震災を語るにあたって、大袈裟な言葉をいっさい用いず、これほどまでに憂慮の思いを込めることができている文章は、めずらしいのではないでしょうか。

わたしは感銘を受けました。

しかし、引用内の問いかけにたいして、2019年現在、わが国はまだ肯定的な回答をおこなえる状況には至っていません……。

東日本大震災につながりがある言説と想像しますが、著者は台湾へ出張される際に、

とうとう実現した久しぶりの海外は、日本にとても親切にしてくれたあの台湾だった。(pp.38)

こうお書きになりました。

上記「とても親切にしてくれた」は、大震災直後に台湾が送ってくれた高額な義捐金、そして種々の心温まる気遣い、を指しておられるのでしょう。

わたしも同様の感謝の念を有しています。

ありがとうございました。

ところで、書名に含まれている「変態」の語。

星野氏は自他ともに認める変態でいらっしゃるそうで、「日本変態協会」なる会の会員でもあられます。

他者に迷惑をかけない変態のようですから、まあ良いのでは?

氏は本書連載中に「脳動脈瘤破裂、くも膜下出血(pp.194)」となって死の淵をさまよわれ、その後、回復なさいました。

ご復活をお慶びいたしますし、今後も穏当な変態生活を楽しんでいただきたいと祈念します。

金原俊輔

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