最近読んだ本346

『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす:非常事態で問われる国家のあり方』、古森義久著、ビジネス社、2020年。

ワシントンでの多様な論者たちにまず共通するのは「ウイルス大感染が一段落した後の世界は、もう決して以前のような世界には戻らないだろう」という前提だといえる。(pp.203)

わが国およびアメリカ合衆国で活動されているジャーナリストの古森氏(1941年生まれ)が、新型コロナウイルス禍が過ぎ去ったあとの世界は、とりわけ日米は、どうなるのかを考察した本でした。

だれもが考え、そして備えておくべきテーマでしょう。

氏はふたつの変化の可能性を示しておられます。

まず、

世界のグローバル化の大幅な後退である。
グローバル化とは国と国との間で人、物、カネが国境を越えて自由に動くことだとされる。(中略)
ウイルスの感染拡大も、そのグローバル化の異端な産物だった。危険なウイルスに感染した人間が他の国に渡ってそれを広めたのだ。(中略)
となれば、諸国間の人の往来に規制がかかるのは自明である。(pp.204)

感染が拡大するや各国が国境封鎖をおこないだした事態は、上記の卑近な例でした。

海外進出した日系企業の母国への撤退を日本政府が支援する施策も、別の例になり得ます。

つぎは、

国家主権の役割の拡大である。
コロナウイルスの被害にあった国はどこでもその国の政府、つまり主権国家自体がその対策の責任を負った。
世界保健機関(WHO)も国連も頼りにはならなかった。(中略)
病み苦しむ国民を救うのは、やはり政府なのだという単純な現実だともいえた。(pp.208)

コロナ対策の途次、民主主義の縛りを破らんばかりの強権を発動した国々と、民主主義を遵守しつつ取り組んだ国々とに分れましたが、こうした傾向も念頭に置かれたうえでの文章なのではないでしょうか。

ちなみに、日本人が国連を素朴に信奉しすぎているという指摘は、むかしからありました。

今回「WHO」の散々な体たらくぶりを見た結果、目を覚ました同胞諸氏は多かったはずです。

以上が古森氏のご指摘でした。

さて、ここで話題を変えます。

アメリカの科学哲学者トーマス・サミュエル・クーン(1922~1996)は、

トーマス・クーン著『科学革命の構造』、みすず書房(1971年)

にて「パラダイム転換」なる概念を提唱しました。

パラダイム転換とは、ある時期まで当然かつ適正と受けとめられていた科学的認識が、視点が異なる重要研究によって根本的に覆(くつがえ)されてしまう現象です。

「天動説」が「地動説」に替わったことはパラダイム転換ですし、心理学の対象が「心」から「行動」へ移行したこともパラダイム転換だったといえるでしょう。

おもに学術領域で用いられている言葉なのですが、わたしは、新型コロナウイルス感染症の地球規模拡大は世界にパラダイム転換的な変動を起こさせるのではないか、と思っています。

つまり、本コラム冒頭の引用につながるわけです。

いかなるパラダイム転換がやってくるかについては、わたしごとき者の想像力を凌駕しており、なんら語ることができません。

パラダイム転換ほど大げさではない動きに関する予想でよろしければ、わたしが予想するのは、現時点で新型コロナウイルスの災いが深刻な状況の国ほど、これから国力を増してゆく、そんな逆説っぽい展開です。

なぜなら、この疾病の重篤患者は高齢のかたがたに集中しており、ということは被害が甚大だった諸国では高齢者数が減って、人口における低年齢国民の比率が高まる。

年金・医療費などの国家負担が軽減し、若いエネルギーによる技術革新・経済力増強が進む……、であるからです。

わたしはベトナムへ2回旅行しました。

かの国は「ベトナム戦争」のせいで(2020年現在でいうと)60歳代中ごろを超える年齢層が少ない状態です。

それが同国の活気を興起させている現実を、目の当たりにしました。

金原俊輔

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