『増補 オオカミ少女はいなかった:スキャンダラスな心理学』、鈴木光太郎著、ちくま文庫、2015年。

これは、同じ著者が出版した『オオカミ少女はいなかった:心理学の神話をめぐる冒険』、新曜社(2008年)という単行本に加筆訂正をおこなった文庫版です。

2008年の単行本は、根拠があいまいな心理学の神話をひとつひとつ洗いだし、資料・データを駆使して論破した快作でした。

ところが、その本に、アメリカの心理学者B・F・スキナー(1904~1990)は自身が開発した「スキナー箱」という心理学の実験器具で自分の娘を育てた、と書かれていました。

まったく事実無根です。
上記の「実験器具で娘を育てた、云々」はスキナーがらみの有名かつしつこい神話(誤解)なのです。

スキナーは生前この誤解にずいぶん苦しみました。

神話を追及する本のなかで他の神話を鵜呑みにしてしまったのは、著者の大きな失敗だったと考えます。

スキナーは、会ったことはないものの、わたしの師匠にあたります。
わたしはアメリカの心理学系大学院でスキナーの教え子たちから教育を受けたので、スキナーの「孫弟子」なのです。

それだけに、本書2008年版の瑕疵(かし)を、残念に思いました。

そうしたところ、2015年発行の文庫本では、

ただし、スキナーはこの箱で自分の娘を育てたわけではなかった。(pp.275)

と、正確な記述になっていました。

ホッとしました。
著者がまちがいに気づいて訂正された労を多とします。

金原俊輔