『悪と徳と 岸信介と未完の日本』、福田和也著、扶桑社文庫、2015年。

第56代・第57代の内閣総理大臣だった岸信介(1896~1987)の生涯を叙述した評伝です。

福田氏(1960年生まれ)の過去の作品と同じく、膨大な資料に基づいている労作でした。

興味深く思ったのは、本書に登場する政治家・吉田茂(1878~1967)の人間像が、北康利著『白洲次郎 占領を背負った男』、講談社(2005年)で描かれた吉田像と、ほぼ正反対だったことです。

北著において吉田は、広い展望を有し、責任感がある指導者だったいっぽう、福田著においては、サンフランシスコ講和条約を結んだのち、

国政が国民の手に戻されたときに身を引くべきであったろう。それを怠り、吉田がそのまま政権の座に居座ったことで、講和、独立という大きな節目をあいまいにし、占領という異常事態の清算ができなかったことからくる負の遺産は、今日まで持続している。(pp.335)

と、手きびしく批判される対象者です。

どちらの本が正しいのか、というような問題ではないでしょう。
人間は複雑なので、見る人、見る角度によって、同一人物であってもかなり評価が異なり得ます。
以上は当たり前のことながら、2冊の本を通し改めてそう気づかされました。

なお、福田著は、題名にそぐわず岸の悪や徳には(そして日本の未完成さにも)踏みこんでいませんでした。
その点は物足りなく感じました。

今後、続編があるのかもしれません。

金原俊輔