最近読んだ本688:『独裁者トランプへの道』、町山智浩 著、文藝春秋、2025年
町山氏(1962年生まれ)が『週刊文春』誌に連載なさっている『言霊USA』を書籍化したものです。
同氏の連載はこれまで何冊もの単行本となっており、当コラムにおいても全6回、氏の作品に関する書評を載せました。
さて、『独裁者トランプへの道』では、ドナルド・トランプ氏(1946年生まれ)とカマラ・ハリス氏(1964年生まれ)が戦った2024年アメリカ合衆国大統領選挙の話題が中心。
町山氏の情報収集力は素晴らしく、わたしは本書を読みつつ幾度も「知らなかった。著者ってこんなことまでご存じなのか」と感心させられました。
たとえば、トランプ氏は20歳代後半だったころに「ロイ・コーンという弁護士の弟子となった(P. 303)」そうで、
ロイ・コーンは若きトランプに「ロイ・コーンの戦法」を伝授する。
「戦法その1。攻撃(アタック)、攻撃、攻撃。けっして防御するな」(中略)
「戦法その2。何を言われてもすべて否定しろ」(中略)
「戦法その3。いくら負けても勝利を主張しろ。絶対に敗北を認めるな」
コーンは負け知らずだ。なぜなら負けを認めないからだ。(中略)
トランプは政治家に転身してからもコーンの教えを守り続けている。(P. 304)
われわれ日本人(だけでなく世界の多くの人たち)がイメージするトランプ像は、このロイ・コーン氏(1927~1986)から授かった処世術に基づいているわけです。
師匠はさぞや冥府で満足していることでしょう……。
しかし、トランプ氏がコーン氏の教えを忠実に守ることは日本や世界にとって迷惑至極。
具体例は枚挙にいとまがないものの、「攻撃(アタック)、攻撃、攻撃。けっして防御するな」に結びつく件を語れば、大統領に当選したトランプ氏は、
経済政策においては、輸入品に10~20%以上の関税をかけると公約している。(P. 326)
2025年5月現在、上記「関税」のせいで諸国に大きな衝撃が走り、各地の生産者心理・消費者心理に悪影響をおよぼし、あまつさえ「関税」は(当然の成り行きとして)アメリカ合衆国自体の経済をも失速させだしています。
まあ、大統領は「絶対に敗北を認め」ないでしょうけれど。
そこで気になってくる話題が「プロジェクト2025(P. 326)」。
これはトランプの元閣僚たちが作成したトランプ新政権の計画書で、それによると政府官僚のうち5万人の民主党支持者をトランプに忠誠を誓う者と入れ替える。司法省からも自分に敵対的な職員を追放する。既に最高裁判事は支配し、議会の上下院も共和党が支配した今、トランプは司法と立法と行政、三権分立の上に立つ、やりたい放題の独裁者になる。任期を延長するのなんて簡単だ。(P. 326)
勘弁してほしいですが、それにしてもアメリカはいったいどうなってしまったのか、今後どうなってしまうのか?
わたしにとって言わば第2の故郷ですので、非常に心配です。
金原俊輔