最近読んだマンガ30:『路傍のフジイ 1巻~4巻』、鍋倉夫 作画、小学館、2023年~2025年

フジイ(漢字だと「藤井」)は、

40過ぎで 非正規社員 ……独身男。(1巻、第1話、P. 10)

やや小柄、中肉で、たいして良い顔立ちの男性ではありません。

趣味は「ジグソーパズル(1巻、第2話、P. 25)」。

ほかに、下手ながら、

ギターも… 歌も。絵も陶芸も…(1巻、第1話、P. 38)

そして職場では「ずっとみんなと 距離がある(3巻、第20話、P. 11)」だけでなく、「ナメられてる(1巻、第1話、P. 11)」状況。

けれども毎日たんたんと仕事をこなしています。

そうしたところ、フジイに肯定的感情を抱く同僚社員が複数名あらわれました。

田中君は、当初、フジイのことを「金もない。友達もいない… 孤独な中年男だろ(1巻、第1話、P. 33)」と見下していたものの、やがて「つまらない人間に 見えたのは、俺自身が つまらないやつだからだ(同、P. 39)」と気づきます。

石川さんという女性は、「藤井さんは 私をジャッジしない ような気がして(1巻、第3話、P. 17)」、「藤井さんを見てると 人間そのものを 少し好きになれるというか…(3巻、第26話、P. 14)」、こう考えるようになりました。

周囲の人たちの目を通しつつフジイの不思議で魅力的な為人(ひととなり)が語られてゆきます。

書中の、フジイや関係者らが体験する各種エピソードには現実味があって、わたしは身につまされました。

えも言われぬ味わい、おだやかな雰囲気、を有するマンガです。

わたしは、多くの登場人物(とりわけ田中君と石川さん)が自分自身のことをもてあましており、フジイのほうはまったく自己をもてあましておらず、そのコントラストの結果『路傍のフジイ』に味わいが醸(かも)しだされているのではないか、こんな当て推量をしました。

いっぽう、長崎メンタル社のある社員は、田中君も石川さんも承認欲求が強く、しかしフジイには承認欲求がない、だから二人はフジイに惹かれる、これが物語の基調、このように見ています(当方、「なるほど!」と膝を打ちました)。

最後です。

わたしは、フジイは、宮澤賢治(1896~1933)の「雨ニモマケズ……」で描写された人間像を彷彿(ほうふつ)させると思いましたし、

『キャプテン』、ちばあきお 作画、集英社、1974年~1980年

上記マンガの初代主人公にも似ていると感じました。

金原俊輔