『本当に偉いのか:あまのじゃく偉人伝』、小谷野敦著、新潮新書、2016年。

小谷野氏(1962年生まれ)の新作です。

わたしは同氏の文章が好きなので、お書きになった本はほとんどすべて読みました。
おもしろいし、ためになります。

上掲書でも、著者の博識ぶり、世間のムードに関わりなくご自分の意見を主張する勇敢さ、が存分に発揮されていました。

あつかわれている人物たちは、夏目漱石、西郷隆盛、ベンジャミン・フランクリン、リヒャルト・ワーグナー、坂本竜馬、伊福部昭、司馬遼太郎、ヘレン・ケラー、荻野久作、野口英世、と多彩です。

かぞえてみたところ総勢88名の人々が対象になっていました。

ひとつ例をあげましょう。

井上ひさし(1934~2010)についてです。

最初の妻だった好子への暴力はよく知られている。また遅筆堂などとふざけて言ってみせても、上演する劇場に迷惑をかけており、普通の劇作家なら干されるところである。
(中略)
井上は、「笑いの復権」などと言っていたが、ちっとも笑えなかった。柄谷行人も、笑いがどうとか言っているやつのものはちっとも笑えないと言っていた。井上は近世の戯作者が笑えると思っていたようだが、そう笑えるものではない。(pp.136)

小谷野氏はこのように容赦なく否定しました。
暴力や他者への迷惑はさておき、人が何を笑うかは人それぞれで問題ない、べつに井上氏の欠点ではない、とわたしは考えるのですが……。

それにしても、これまで「偉い」と思っていた顔ぶれがつぎつぎに「偉くない」とされてゆくのを読んでいると、読む側になにやら「発想の転換」のような変化が起こってきます。
人間の裏表に思いをはせるようにもなります。

今回もおもしろく、ためになる読書でした。

金原俊輔