『芥川賞の偏差値』、小谷野敦著、二見書房、2017年。

芥川賞は、1935年(昭和10年)に第1回が授与され、爾来、現在までつづいています。

著者(1962年生まれ)は2016年(平成28年)第156回までの全受賞作に目を通し、そして各作品の出来・不出来を偏差値であらわしました。

あつかわれたのは計164点です。

そのうち、わたしが読んだことがあるものは、わずか12点でした。

自分の既読作品のタイトルを時系列的に列挙して、おとなりに小谷野氏の偏差値をならべると、

尾崎一雄『暢気眼鏡』 70
安倍公房『壁-S・カルマ氏の犯罪』 40
堀田善衛『広場の孤独』 36
松本清張『在る「小倉日記」伝』 64
小島信夫『アメリカン・スクール』 49
石原慎太郎『太陽の季節』 38
大江健三郎『飼育』 58
柴田翔『されどわれらが日々-』 52
丸谷才一『年の残り』 52
古山高麗雄『プレオー8の夜明け』 56
野呂邦暢『草のつるぎ』 48
高橋三千綱『九月の空』 42

このようになります。

最後の『九月の空』は1978年(昭和53年)の作品であり、わたしの場合、それ以降の受賞作には接していません。

小説をめったに読まなくなってしまって……。

『芥川賞の偏差値』は力作ながら、小説や芥川賞に関心を抱いていない者には、もうひとつ入り込めない内容でした。

いっぽう、同じ著者による『文章読本X』、中央公論新社(2016年)のほうはひとかたならぬおもしろさで、参考になる箇所も多々ありました。

読点をどう用いるか、「~と言った」が頻出してしまうようなときにどう対応すべきか、などの件は、わたし自身も論文だのコラムだのを書く際に苦労しているため、適切なアドバイスをいただいた気がします。

そのうえ、

文藝評論の文章に毒されるのも良くないが、新聞の文章に似るのも良くない。「朝日新聞」の「天声人語」を書き写させる本などが出ているが、論外である。新聞記者の文章は、紋切り型が多く、よくない文章の見本とも言うべきものである。(pp.153)

こうした遠慮のないご意見を連発されて読者の興味を盛りあげるところは「小谷野氏ならではの芸」と感じました。

金原俊輔