『性と欲望の中国』、安田峰俊著、文春新書、2019年。

あらゆる生物全般にとって、性(=生殖)は最も重要な欲求だが、人類の場合は性を通じて身体的快楽や精神面での幸福感を得たいという、より高次の欲求が存在している。(中略)
世界最多の14億人の人口と日本の25倍の国土面積を擁する中国は、政治や経済といった社会構造の各方面において、良くも悪くも「大国」である。これはすなわち、中国はあらゆる欲望の大国であることを意味する。(pp.4)

簡明な序文です。

人類にとって非常に大事なものである「性」。

それでは、世界で最も多数の人類が存在している中国において性のありかたはどうなのか、人間が多い分、性も多様に展開しているのではないか。

わかりやすいうえ読む意欲がそそられる問題提起でした。

そして本文は、

第1章 拝金の性都・東莞の興亡
第2章 人民解放軍に翻弄された「世界最大の売春島」
第3章 AIとエロの奇妙な融合
第4章 貴州ラブドール仙人
第5章 LGBTの葛藤と受難
第6章 日本AV女優ブームの光と影

全6章で構成されています。

どの話題も生々しく……。

第4章「ラブドール」を熱愛する人物についての報告は、一般的に「フェティシズム」と呼ばれる現象をあつかっていました。

フェティシズムは、行動療法家であるわたしの目から見れば「レスポンデント条件づけ(条件反射)」のひとつの現れ。

昨今の日本でもアニメのキャラだのフィギュアだのに強い愛着をしめす若者たちが増加している状況で、これはべつに間違った行為ではないものの、「種の存続」につながる性ではありません。

場合によっては国の少子化に拍車をかけてしまうでしょう。

わたしは「ある程度レスポンデント条件づけが成立しにくくなる仕組みが開発されるべき」と願っています。

つづいて第6章が興味ぶかく、個人的に、ここで登場した蒼井そら氏(1983年生まれ)という日本女性に好感をもちました。

氏は中国人ファンのために言語を学び、たどたどしい中国語ながらSNSで当地へ発信をつづけられたそうです。

誠実なご対応です。

彼女の知名度はどんどん上がり、2012年9月に中国各地で大規模な反日デモが発生した際には、デモ現場のプラカードに「釣魚島是中国的! 蒼井空是世界的!(尖閣諸島は中国のもの、蒼井そらは世界のもの)」という、いまいち垢抜けないジョークまで登場するほどになった。(pp.201)

すごい人気を獲得しました。

うれしく思います。

最後に、本書では怖い記述が散見されました。

中国人は「微信(WeChat。中国のチャットアプリ)(pp.50)」を利用しており、しかし、

微信のやりとりが当局に筒抜けなのは中国人なら誰でも知っている。
「悪いことをやったら、絶対に逃げられないんですよ」
中国は近年、国内に大量に監視カメラを備え付け、公安がそれらの情報をオンラインで把握、クラウドに蓄積することで治安管理を強化している。
近年は広東省を中心にした中国式イノベーションの発展を受けて、一部の監視カメラは顔認証機能を搭載するようになり、AIによって怪しげな人物を感知しているともいう。(pp.51)

ほかの中国関係の書籍でもしばしば語られている問題です。

引用文の「悪いこと」「怪しげ」というのは政治上の意味合いであって、日本でならば普通に認められるような政治活動を含んでいます。

また、中国人は「拝金主義者だらけ」と評されますが、じっさい、

中国の社会は「持たざる者」に対してはとことん残酷だ。(pp.47)

とのこと。

そうした社会で生きるのは大変でしょう。

同時に、なんとしても底辺から這いあがろうとする原動力もわき起こってくるのではないでしょうか。

這いあがって大物になった顔ぶれは少なくありません。

以上、『性と欲望の中国』をとおし、読者は中国における性や欲望ばかりではなく、同国の体制、国民気質、(中国に通じるところがある)日本社会のありかた、などに関して理解を深めることができる、と考えます。

金原俊輔