『ルポ 平成ネット犯罪』、渋井哲也著、ちくま新書、2019年。

渋井氏(1969年生まれ)はジャーナリストでいらっしゃり、これまでインターネット問題および若者たちの自殺に関する本を書かれてきたそうです。

今回のご著書では平成時代の約30年間に起こったネットがらみの諸犯罪を展望なさいました。

われわれ読者の記憶にのこっている事件がつぎつぎ登場します。

それらに対して、氏は、メディア情報や各種団体の発表そして文献資料を駆使しつつ、数字を中心に、考察を進められました。

たとえば、

日本PTA全国協議会が、公立の中学2、3年生を対象にした生活意識・実態調査(平成6年)によれば、「テレクラに電話をしたことがある」と回答したのは男女あわせて17.2%だったが、男子は7.6%、女子は27%を占めた。(pp.26)

「出会い系サイトの利用」については中高生全体で12.4%。
中学男子は2.0%、中学女子は7.1%、高校男子が18.7%、高校女子が22.0%。どちらも男子より女子のほうが多い。(pp.57)

ふたつ目の引用は、2001年「インターネット上の少年に有害なコンテンツ対策研究会」がおこなった調査の結果です。

相模ゴム工業の調査「ニッポンのセックス」(2018年、対象1万4100人)によると、20代の男女がインターネットで初体験の相手と知り合うことは珍しくない。
20代女性の14.7%(SNS11.2%、ソーシャルゲームなど0.6%、出会い系サイトなど2.9%)、20代男性の10.6%(SNS7.3%、ソーシャルゲームなど0.5%、出会い系サイトなど2.8%)に及ぶ。
これがたとえば5年前だと女性は9.6%だったから、明らかにネットをきっかけにした出会い、交際、性体験は増えている。(pp.90)

こういう傾向も生じているとのことでした。

著者は、各種データの渉猟に加え、関係少年少女インタビュー、刑務所内の人物との文通、さらには拘置所訪問、といった突っ込んだ取材もなさっています。

テーマを真摯に追究していらっしゃると感心いたします。

そんな著者のご苦労のおかげで、わたしは、罪を犯した人々が孤独・貧困・家庭問題・精神疾患などに苦しんでいた事実を、あらためて認識しました。

ところで、少年院に収容されていた、ある若者のエピソード。

「親を殺して、自分も死んでやろう」と。トラブルに対する両親の態度が中途半端だったことから復讐を思いついたのだった。
けれど、少年院で義紀は「内観」というプログラムを受ける。自分の人生を振り返り、自分が他人に与えられてきたことを考える心理療法である。内省して親から与えられたものは大きいと感じることで、感謝する自分を発見する。そのため退院時、自殺願望や焦燥感はなかった(後略)。(pp.212)

日本独自の心理療法「内観療法」が紹介されています。

上記の事例によれば、「義紀(仮名)(pp.210)」君に少しく効果を示したものの、残念ながら効果に永続性はありませんでした……。

本書が最もアピールしたかったのは、「インターネットは危険か?」項における、

掲示板等で自殺を助長・誘引する書き込みを放置する危険に加えて、欲しい情報だけを選択できるインターネットの特徴から、自殺念慮はいっそう深まる。(pp.214)

この文言でないでしょうか。

わたし自身「欲しい情報だけを選択できるインターネットの特徴」を問題視しているところです。

データにしても、内観にしても、文言にしても、スクールカウンセラーである身にとって大事な事項満載の内容でした。

一箇所だけ、個人的に納得できない部分があります。

長崎県教育委員会の「佐世保市立大久保小学校児童殺傷事件調査報告書」(平成16年12月)は、「事件直後の加害児童の発言から、インターネットの掲示板への書き込みが、加害児童が、被害児童に対して、『怒り』や『憎しみ』を抱く大きな要因だったことがわかる」と報告している。
そのため、再発の防止に向けて、「子どもの心の状態を把握することや、道徳教育、インターネットモラル・マナー向上対策などの長崎モデル」が提唱された。
しかし、どのような人員が必要かは示されず、再発防止の具体性を欠いた。結果として、平成26年(14年)7月の佐世保女子高生殺害事件にもつながる。(pp.108)

「再発防止の具体性」が不十分であったのは、長崎県側が反省し改善すべき点でしょう。

しかし、その不十分さが原因となり「結果として」「佐世保女子高生殺害事件」が発生したのかどうかは、だれにもわかりません。

著者が「つながる」と断定されたことに反対します。

金原俊輔