最近読んだ本341

『魂でもいいから、そばにいて:3・11後の霊体験を聞く』、奥野修司著、新潮文庫、2020年。

わたしは「霊体験」なるものをまったく信じていません。

そういったできごとは、たんなる偶然、気のせい、こじつけ、拡大解釈、幻覚や妄想、ではないかと考えているのです。

しかし、そんなわたしですら、上掲書には深く感動させられました。

2011年3月11日に発生した「東日本大震災」。

周知のとおり、

死者・行方不明者1万8千人余。(pp.18)

に至る大惨事でした。

以降、被災地各所で、ご遺族の皆さま多数が経験された種々の不可思議な現象。

たとえば、

岡部さんはこんな話をした。
「石巻のあるばあさんが、近所の人から『あんたとこのおじいちゃんの霊が大街道(国道398号線)の十字路で出たそうよ』と聞いたそうだ。なんで私の前に出てくれないんだと思っただろうな、でもそんなことはおくびにも出さず、私もおじいちゃんに逢いたいって、毎晩その十字路に立っているんだそうだ」(pp.17)

持続する夫婦愛に切なさをおぼえます。

幼いご長男の康生君を失った遠藤由理氏の場合、

「2013年のいつでしたか、暖かくなり始めた頃でしたね。あの日、私と中学生の娘と主人と、震災の翌年に生まれた次男の4人で食事をしていたんです。康ちゃんと離れて食べるのもなんだから、私が祭壇のほうを振り向いて、
『康ちゃん、こっちで食べようね』
そう声をかけて『いただきます』と言った途端、康ちゃんが大好きだったアンパンマンのハンドルがついたおもちゃの車が、いきなり点滅したかと思うと、ブーンって音をたてて動いたんです」(pp.79)

哀しい親心に涙が出てきますし、生を終える瞬間の康生君の恐怖、康生君が他界した直後の遠藤氏のご愁嘆、を思うと胸が締めつけられます。

『魂でもいいから~』は、家族同士・人間同士の固い絆が描かれた、素晴らしいルポルタージュでした。

いっぽう、被災地には「霊的な体験」をなさっていないご遺族も少なからずおられると想像され、そのかたがたが他者の霊体験の噂を耳にしたのち、ご自分を責めたり、故人の愛情を疑ったり、していらっしゃるのではないかと危惧いたします。

やはり「霊魂などない」と受け止めるほうが良いのではないでしょうか。

ところで、奥様と次女を失われた亀井繁氏は、夢で奥様の言葉をお聞きになりました。

私の希望は、自分が死んだときに最愛の妻と娘に逢えることなんです。死んだ先でも私を待っていてくれるという妻の言葉こそ、私には本当の希望なんです。いつか再会できるんだという一縷(いちる)の希望が持てたからこそ生きてこれたのだと思います。(pp.40)

大震災とは無関係なのですが、わたし自身、数年前に妻を亡くしました。

亀井氏のお気もちが痛いほどわかります……。

以下、余談です。

本書は、岩手県を含む東北地方での神秘譚であるため、わたしは読書中、

柳田国男著『遠野物語』、新潮文庫(1973年)

を連想しました。

書かれている内容の温かさ・やさしさ・美しさは『魂でもいいから、そばにいて』が『遠野物語』を遥かに上回っています。

金原俊輔

前の記事

最近読んだ本340

次の記事

最近読んだ本342