最近読んだ本697:『ルポ 台湾黒社会とトクリュウ』、花田庚彦 著、幻冬舎新書、2025年
最近、ニュースなどで頻繁に見聞きするようになった「トクリュウ」なる語。
これは「匿名・流動型犯罪グループ(P. 17)」を略した言葉で、
SNSや求人サイトなどで「闇バイト」と呼ばれる形で実行役の人員を集め、犯罪を行うという、比較的新しいタイプの犯罪集団を指す(後略)。(P. 17)
上掲書は台中市(台湾)のトクリュウへの潜入取材を敢行なさった花田庚彦氏によるルポルタージュでした。
なぜ台中市だったかというと、「トクリュウの発祥の地の一つが台湾(P. 33)」、台湾が「トクリュウの一大拠点地(P. 16)」、であるため。
花田氏は「現地のリクルーターが募集している案件に応募(P. 110)」して「台湾で、トクリュウの現場(P. 110)」に入り込まれたのです。
さっそく宿舎に入ると、(中略)「パスポートを出してほしい」と要求されたが、「荷物の下にあるので待ってほしい。タバコを吸いたい」と、話題を変えてこの場でははぐらかすと「室内は禁煙なので、外で吸ってほしい、出入口の暗証番号は教える」と向こうは返答。
はからずも、接触後すぐに脱出をする重要な糸口を掴むこととなったのである。(P. 118)
同氏が「脱出」を念頭に置いていた理由は、
取材とはいえ、トクリュウの犯罪に加担する気はまったくない。(P. 109)
正しいお覚悟です。
さて、宿舎は、
タコ部屋的なものを想像していた予想とは異なり、こぎれいな内装のものだった。(P. 118)
仕事場へ行くと、
10代と思われる若者から、60~70代と思われる高齢者まで、年齢層がバラバラの男4人がスマホを片手に1台ずつ握り、皆どこかに電話をかけている。(P. 121)
彼らはすべて日本人で、
耳を済ますと「宮崎県警の捜査二課の○○です。○○さんの電話で間違えはないでしょうか」など、トクリュウの定番になっている言葉が聞こえてくる。(P. 121)
だんだん読む側の緊張感が高まってきます。
以降、スリルにあふれた展開となるものの、それはいわば本書の要(かなめ)ですので、引用は控えましょう。
そこで、別件となります。
花田氏は、リクルーターに誘われて台湾トクリュウで電話詐欺の片棒をかついだのち日本へ帰ってきたばかりの男性に、インタビューをおこなわれました。
まず、どれくらいの給料であったか?
「ベースとなる給料は40万円で、相手から騙し取った総額の3%がボーナスとして支給されていました」(P. 56)
90日間ほど働いた結果の総収入は?
「前回は120万円くらいでしたが、今回は280万円でした」(P. 57)
けっして少なくない額と言えます。
本書では他の箇所でもトクリュウ関係者たちの金満ぶりが記されていました。
たとえば、花田氏を「組織の No.2である陳氏が(中略)ポルシェの高級車であるカイエン(中略)で迎えに来てくれた(P. 26)」とか、陳氏のボスである王氏は「正直笑いが止まりませんね(P. 38)」こう語ったとか……。
トップや幹部たちから末端にいたるまで相当儲かっている模様です。
しかし、悪事は悪事。
トクリュウで逮捕された場合、殆どのケースで彼らのような18~19歳の特定少年は少年院または刑務所に送られ、1年以上の自由を奪われることとなる。(P. 122)
その手に手錠がかけられた時、恐らく彼は後悔することになるだろう。(中略)
これからトクリュウに加わろうと考えている人々に対しては、罪を犯さない勇気、断る勇気の大切さについて声を大にして主張したいと思っている。(P. 123)
おいしい話には裏がある。
いま、リクルーターにトクリュウの世話に誘われた人間は100万円で命を売られたと肝に銘じてもらいたい。(P. 230)
大事な戒(いまし)めです。
だれもが上の文章を「肝に銘じて」おくべき。
とはいえ、残念ながら、そもそも「トクリュウに加わろうと考えている人々」は他人を騙してお金を得る行為に良心の呵責を感じないタイプの人々であり、「罪を犯さない勇気、断る勇気」などあまり持ち合わせておらず、だからこそ(浜の真砂は尽きるとも……)犯罪者になってしまうのでしょう。
金原俊輔