最近読んだ本702:『もうすぐ絶滅するという煙草について』、ちくま文庫編集部 編、ちくま文庫、2025年

喫煙者であるわたしが書店でこういうタイトルの本に遭遇したら、買わずに立ち去るわけにはいきません。

購入し、帰宅後さっそく目を通しました。

「煙草」に関するさまざまな思いや体験をつづったエッセイの、アンソロジーです。

執筆陣には、すでに物故した人が多数含まれていたいっぽう、2025年現在ご活躍中のかたがたもおられました。

以下、いくつか引用し、わたしの感想をつけ加えます。

まず最初に、遠藤周作(1923~1996)は、

私が食後、煙草をすっていると、息子が実に羨しそうな顔をしている。(中略)
「おいしい?」
と彼はたずねる。私はわざとイヤがらせに、
「うまいねえ。君はまだ子供だから煙草をすうわけにはいかないねえ」(中略)
うむーと彼はうなずいていた。(P. 21)

むかしの食卓や茶の間でよく見られたであろう光景。

文中で「うなずいていた」息子さんは、長じてフジテレビジョン取締役副会長に就任なさり、フジテレビが関与した芸能人の性加害事件(2024年末に発覚)の報道でお名前が出てきていました(おぼえやすい名前だったため、当方、記憶していたのです)。

言うまでもなく、わたしは彼が事件にどんな形でからんでいらしたのかを存じておりません。

つづいて、山田風太郎(1922~2001)です。

漱石と弟子の森田草平がレストランにはいった。食事後、二人がタバコに火をつけると、となりのテーブルにいた西洋婦人たちが、ながれてくる煙に顔をしかめて、こちらをむいて非難の声を投げた。草平がそのことを漱石に告げると、漱石は、「ありゃアメリカの女だろう。イギリスじゃいいんだよ」といって、平気な顔でタバコを吹かしていた。
……という挿話が草平の想い出のなかにある。(P. 136)

夏目漱石(1867~1916)がしばしば利用していた「上野精養軒」におけるエピソードでしょう。

わたしは、ふたりともお詫びを述べたのちタバコの火を消すべきだった……、こう思いました。

同時に、アメリカ合衆国には1世紀以上前からいわゆる「Karen(カレン:高圧的で自己主張が激しい白人女性)」っぽい人たちがいたのか、と驚きもしました。

最後です。

東海林さだお氏(1937年生まれ)の場合、

実を言うと、禁煙はこれまで3回ほど試みている。
3回試み、3回ことごとく禁煙に成功している。1回目は3日間の禁煙に成功し、2回目は7日間、そして3回目は3カ月もの禁煙に成功した。
失敗1回もなし、その都度、カクカクたる成果を収めてきた。(P. 172)

アメリカの作家マーク・トウェイン(1835~1910)が発した有名な禁煙ギャグに似ていると感じました。

とはいえ、東海林氏の文章には斬新な視点・表現が織り込まれていることが珍しくなく、わたしは好きです。

これまで、

『もっとコロッケな日本語を』、東海林さだお 著、文春文庫、2006年

『偉いぞ! 立ち食いそば』、東海林さだお 著、文春文庫、2009年

などを楽しみました。

以上、この『もうすぐ絶滅するという煙草について』には、全部で41編の随筆と1編の4コマ漫画が収録されています。

わたしは前半部分こそおもしろがって読んでいたのですが、だんだん飽きてしまいました。

なにしろ、ずっとタバコの話題だけ……。

どうせならタバコの本でなくタバコそれ自体を飽きる日が来てくれればありがたいものの、おそらく自分にそんな日は来ないだろうと予想しています。

金原俊輔