最近読んだ本716:『昭和の夢は夜ひらく』、五木寛之 著、新潮新書、2025年
昭和世代は、そろそろ退場の季節に入ったのだ。(P. 252)
2025年、93歳になられた五木氏(1932年生まれ)。
氏は、昭和時代に、絶大な人気を博していらっしゃいました。
多作なかたで、しかし、わたしが読んだことがあるのは、
『対論』、野坂昭如、五木寛之 共著、講談社、1971年
上記だけ。
何となくご縁がありませんでした。
『昭和の夢は夜ひらく』は、五木氏が淡々と、そしてしみじみと、過去の思い出および現在の心境をつづったエッセイです。
海の潮がゆっくり引いて行くような静かな雰囲気が漂っていました。
「昭和百年とはいうけれど」章、「文壇つかずはなれず」章において、当方も知っているできごとや人物が語られ、興味深かったです。
さて、氏にとって、
「最近、子供のような年頃の編集者がやってくることが多くなってね」(P. 159)
であったのが、いつしか、
終末期高齢者の私から見ると、本当に孫のような若い世代が介護、いや、担当してくれることになるのだ。(P. 159)
こう変化しました。
そんな状況下でのエピソード。
先日も、「文壇バーってなんですか」と、きかれた。(P. 160)
当該編集者はお若いので知らなかったのは仕方がないものの、文芸誌の編集者であるならば、今後、
『おそめ:伝説の銀座マダム』、石井妙子 著、新潮文庫、2009年
を、読んでおくべきです。
別のエピソード。
「昭和の遊郭について」などという民俗学的主題もあって(後略)。
「そういう内容なら、荷風さんにでもおききになったらいかがですか」
と、冗談のつもりで言ったら、
「カフーさん? どちらのカフーさんですか」
と、きき返されたのにはびっくりした。(P. 188)
出版の仕事をしているのに、永井荷風(1879~1959)をご存じない……。
ほかでは、
「サンドイッチマンって、なんですか」
と、若い編集者にきかれて、説明するのに汗をかいた。(P. 234)
まあ、年齢的に、これはやむを得ないかもしれないです。
70歳のわたしとて言葉を知っている程度で、実際に街でサンドイッチマンをお見かけした記憶はありません。
以上、五木氏と編集者たちとのやりとりを紹介しました。
最後に、わたしが本書のページを繰りながら、想像したこと、著者に認識していただきたいと感じたことを、ひとつずつ書きます。
まず、想像したこと。
最近、徳田秋聲記念館を訪れるために金沢へいく若い女性が激増しているという。
どうもよくわからない。(P. 163)
おそらく、ゲーム『文豪とアルケミスト』の影響ではないでしょうか?
インターネットで調べたところ、徳田秋聲(1872~1943)が同ゲームに登場するみたいなので。
つぎに、著者に認識していただきたいと感じたことです。
先日朝の新聞に唐十郎の死が大きく報じられていた。坂本龍一、小澤征爾、につづいて昭和世代のチャンピオンたちが一斉に退場していく。(P. 20)
五木氏ご自身こそ「昭和世代のチャンピオンたち」の代表的なおひとりですよ。
金原俊輔

