最近読んだ本723:『栞と嘘の季節』、米澤穂信 著、集英社文庫、2025年
北八王子市(架空の街)にある「いちおう市内で1、2を争う進学校(P. 35)」を舞台にしたミステリーです。
わたしは知人から勧められて読みました。
まず、上掲書に対して納得できなかった箇所を書きましょう。
(1)最初の案件は、ふつう、高校生だったら学校図書室の担当教諭か生物科の先生に相談するはず
(2)先述(1)だけでなく、登場してくる高校生たちの言動が高校生っぽくない(大学生か大学院生という設定だったほうが、まだしも妥当)
(3)「かわいかった(P. 334)」ため、3年のちにネット・アイドル的な存在になったほどの女子中学生を、当時の同級生たちが記憶していないのは不自然
(4)登場人物3名は5時間目の授業をさぼって図書室で話し合いをおこなったが、その時点ですでに被害者とおぼしき人が出ており、校内で不穏な噂も広まっていたので、複数の生徒が教室に姿を現わさなかったら騒ぎになっていたはず
(5)終盤が急ぎ足すぎて、多くの読者がくわしく知りたかったであろう種々の事柄に関する説明がほとんどなされなかった
……などです。
では、『栞と嘘の季節』の良かった点は何かと言えば、それはもう、すごくおもしろかったこと。
堪能しました。
毒性が強い植物であるトリカブト、そしてトリカブトを押し花にした栞(しおり)が、物語の中心に位置。
どんな人物が、どんな目的で、トリカブトの毒を悪用しようとしているのか?
主人公たち(高校生男女の3名もしくは4名)は行動し、推理し、知ったことや推理したことを語り合うのですが、このうちの誰がホームズ役で、誰がワトソン役なのかが、分らない。
また、彼らにはそれぞれ事情があるため、嘘も多くつきます。
そうすると、上記3~4名の中に真犯人がいるのかもしれない……。
謎が次第に明らかになってゆくどころか、むしろますます深まってゆきます。
当方は、米澤氏(1978年生まれ)の伏線の張りかたを把握した以降、主役たちのみならず脇役たちも含めて、そのセリフや描写を見落とさないよう努めました。
しかし、真犯人の目星は完全に空振り。
犯人を知ったとき「これはちょっと」と思わないわけではなかったものの、それでも「なるほど」と笑顔になりました。
ミステリーの魅力を存分に示して下さった米澤氏に感謝いたします。
本書を読み終える前から、わたしはそそくさと書店へ向かい、同氏の作品を5冊買って、自宅の机上に積みました。
今後しばらくのあいだ「米澤ワールド」を満喫するつもりです。
ついでですが、学校が舞台で高校生たちが主人公の青春ミステリーと来たら、わが世代の場合、
『アルキメデスは手を汚さない』、小峰元 著、講談社、1973年
を想起し、なつかしくなります。
金原俊輔

