最近読んだ本286
『フルベッキ写真の正体:孝明天皇すり替え説』、斎藤充功著、二見文庫、2019年。
巷間、「フルベッキ群像写真」と呼ばれる古写真が存在する。正式には「フルベッキと塾生たち」とタイトルがつけられた(中略)写真である。(pp.4)
グイド・フルベッキ(1830~1898)はオランダ生まれの宣教師です。
来日し、長崎および東京に住んで、日本滞在中に死去しました。
写真はフルベッキ親子を囲み40数名の侍たちが写っているもの。
わたしが暮らす長崎市ではちょくちょく目にする写真であり、その理由は、まず、当地出身だった幕末のカメラマン・上野彦馬(1838~1904)が市内の新大工町(わが家のすぐ近く)で撮影した一葉であるから。
もっと大きな理由は、写真に、
勝海舟(1823~1899)
大村益次郎(1824~1869)
西郷隆盛(1828~1877)
大久保利通(1830~1878)
木戸孝允(桂小五郎、1833~1877)
坂本龍馬(1836~1867)
伊藤博文(1841~1909)
こうした、江戸時代後期から明治時代にかけて活躍した錚々(そうそう)たる顔ぶれがそろい踏みで写っている、という風説があるからです。
上掲書は、
(1)当該写真に写っているのは、本当に後世に名をのこした著名人たちであるのか
(2)写真内に「後に、明治天皇に『すり替わった』とされる(pp.90)」人物がいるというのは事実なのか
(3)「明治天皇『すり替え』説(pp.252)」の真偽はどうなのか
……おもにこの3点に関して調査・分析した結果をまとめた内容でした。
ミステリー仕立ての歴史ノンフィクションでしたので、本コラムが(1)(2)(3)の答えを教えることはできません。
代わりに、わたしが斎藤氏(1941年生まれ)の厳密な検証作業に感服したことを記します。
まず、氏は証人・関係者を探しだされ、そのかたたちと会われ、役所を訪ね、図書館では古い新聞や書物に当たられて、とにかく精力的な情報収集をなさいました。
訪問先は、かつてロシアの都市だったハルビン、中国の旅順、東京、神奈川、秋田、京都、高知、山口、長崎、など。
長崎県内でも、長崎市と佐世保市さらには五島市へ足を運ばれています。
なんとしても史実を掘り起こしたいという執念を感じます。
むろん歴史知識は豊富でいらっしゃり、著者が提示された史的な話題のうち、わたしがある程度予備知識を有していたのは孝明天皇(1831~1867)の崩御にまつわる不審説だけでした。
読み甲斐とおもしろさを兼ねそなえた作品です。
ただし、
本書は世にはびこる「トンデモ本」ではない。(pp.264)
斎藤氏はこのように述べられましたが、実のところ、『フルベッキ写真の正体』には「トンデモ本」っぽい香りが漂っていました。
書中、ひとつひとつの文章を、もうすこし穏健な書きかたにしたほうが良かったでしょう。
そもそも副題が不正確です。
「孝明天皇すり替え説」ではなく、著者は中身をちゃんと反映させて「孝明天皇暗殺説(pp.127)」あるいは「明治天皇すり替え説(pp.117)」になさるべきでした。
金原俊輔