最近読んだ本418

『ナチュラリストの系譜:近代生物学の成立史』、木村陽二郎 著、ちくま学芸文庫、2021年。

ナチュラリストとは「自然界における生き物のあり方を知ろうとする学問(pp.271)」にたずさわる人々のことです。

上掲書は、古い時代のナチュラリストたちの生涯や業績を語った、重厚な科学評伝でした。

思想家・哲学者として有名なジャン・ジャック・ルソー(1712~1778)もあつかわれています。

かつてルソーの著作を何冊か読んだものの、彼が植物学方面にも造詣が深かった事実は知りませんでした。

さて、わたしが『ナチュラリストの系譜』を購入した理由は、同書の目次にジャン・バティスト・ラマルク(1744~1829)の名前が載っていたからです。

当方が中学生だったか高校生だったか、学校の授業でおそわったエピソードがあります。

苦労のすえたどりついた研究成果を世間が認めてくれず、しかし自分を信じ「わたしの時代がきっと来る」と言いのこして病没した科学者がいる、というものでした。

だれだって心を動かされる逸話でしょう。

これがわたしの頭のなかにとどまっており、てっきりラマルクの話だと思い込んでいたのです。

ところが、こちらの記憶ちがいでした。

言葉はラマルクではなく、グレゴール・ヨハン・メンデル(1822~1884)が発したものでした(そしてメンデルは書中に登場しません)。

記憶の誤りながら、そのおかげで本書を入手できたので、むしろ良かったです。

というのは、ラマルクもまた(メンデルと同様)学者として報われず不遇な最期をむかえたらしいのですが、没後、彼を称える銅像が建設されました。

台座の裏側には、年老いて盲目となったラマルクがマントを着て腰をかけ、その前に娘のロザリーが立っていて、父の肩にやさしく手を置き、父を慰めている青銅の大きな浮彫りもある。その下に、同僚のエチエンヌ・ジョフロア・サン=チレールの聞いた、娘のはげしいことばが刻まれている。
「のちの世の人が賞讃してくださいます。仕返しをしてくださいますよ、お父さん。(以降のフランス語原文は省略)」(pp.178)

やはり感動いたします。

つづいて、この本ではカルル・フォン・リンネ(1707~1778)も紹介されました。

むかし何かの書籍を読んでいた際、大意「リンネが人間にあたえた学名『ホモ・サピエンス』は全人類にくっついている名称で、これほどまでわれわれに壮大な影響をおよぼした学者はリンネをおいてほかにいない」なるコメントがあり、わたしは笑いつつ共鳴しました。

人類発生のときから現在にいたるまで、そして未来も、人間であるかぎりみんなリンネの学名を背負うことになりますので、考えてみるまでもなく彼は偉業を成しとげたわけです。

『ナチュラリストの~』は植物学に焦点をあてていたため、「植物学者のプリンス、リンネ」章で「ホモ・サピエンス」の件は触れられていませんでしたが……。

いずれにせよ有益な本でした。

読了し、学問、なかでも自然科学における、あくなき知識収集、地道な研究の積み重ね、知らない者同士によるデータの重複または共有、そしていつかやってくる素晴らしい結実に、あらためて崇敬の念をいだきました。

金原俊輔

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