最近読んだ本672:『新東京アウトサイダーズ』、ロバート・ホワイティング 著、角川新書、2024年

上掲書は、

ロバート・ホワイティング 著『東京アンダーワールド』、角川新書(2024年)「最近読んだ本646」

の続編です。

完全な続編とは言えないかもしれませんが、ほぼ続編。

前著が二コラ・ザペッティ(1921?~1992)というひとりの男性を中心に展開した読物であったのに対し、『新東京アウトサイダーズ』は複数の人々の人生を活写する群像劇みたいなノンフィクションです。

第二次世界大戦に敗北した以降の日本、とりわけ東京周辺、で蠢(うごめ)いていた「ヤミ取引業者(P. 75)」「詐欺師たち(P. 109)」「ヤクザ(P. 339)」……などが語られ、しかし、そんな危なっかしい輩(やから)ばかりでなく、プロ野球の王貞治氏(1940年生まれ)のように至極まともな人物も登場してきました。

本書を読むことで、昭和時代のわが国の熱気を感じて頼もしくなった半面、むかしから現在にいたるまで絶えまなく続いている日本社会の非日本人たちへの排斥言動にも目を向けさせられます。

わたしは何だか、30歳を超えたばかりのころに接した、

F・L・アレン 著『オンリー・イエスタデイ』、筑摩書房(1986年)

この歴史書を思い出しました。

オンリー・イエスタデイとは「つい昨日のこと」を意味する英語表現。

アレンの本は1920年代のアメリカ合衆国を振り返った内容、いっぽう、ホワイティングの今回作は昭和中期の日本を振り返る内容、という相違があります。

さて、『新東京アウトサイダーズ』における興趣が尽きないあまたのエピソードのうちより、ひとつを選んでご紹介しましょう。

青木定雄(1928~2017)は、

戦中の朝鮮人移民で、悲惨な貧困から立ち上がり、京都から始めたタクシー事業を革命的に盛り上げ、90年代半ばには、東京にまで進出している。彼の「MKタクシー」は、最高のサーヴィスをモットーに、売り上げで他社を圧倒した。(P. 355)

有能な実業家でした。

つねづね「日本人はお客様だ(P. 380)」と気をつかっていらしたそうです。

ところが、次男が日本人と結婚しようとして女性を自宅に連れてくるや、青木は、

怒りを爆発させ、ランプを部屋の向こうへ投げつけた。
「なんだと!」
父親は叫んだ。
「日本人と結婚したい、だと? お前、いったいどうしたんだ?」
母親は泣き出した。
恐ろしい光景だった。両親は、彼女が家の中にいることさえ、我慢できなかった。
「出ていけ!」
二人とも叫んだ。(P. 380)

在日朝鮮人のかたがたがどれほど国内で不当な扱いを受け、それを耐え忍んでいらっしゃるか、多言を要しないで伝えることができる逸話。

青木の奥さま(引用文中の「母親」)や息子さんが日本で如何に嫌な体験をなさったかも具体的に記されています。

悲惨でした。

申し訳ないかぎりであり、ただちに是正をめざすべき本邦の重たい課題です。

わたしは引用文を読み、民族差別がテーマだったアメリカ映画、

ノーマン・ジュイソン 監督『屋根の上のバイオリン弾き』、ユナイテッド・アーティスツ(1971年)

にて描かれた、三女チャバの恋愛・結婚と父親テヴィエの断固たる態度を想起しました。

金原俊輔