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『世界でバカにされる日本人:今すぐ知っておきたい本当のこと』、谷本真由美著、ワニブックスPLUS新書、2018年。

テレビ番組や雑誌記事、書籍で取り上げる「スゴイ日本!」では、次のようなことが「これでもか!」というくらいに叫ばれています。

世界中の人たちは日本人を尊敬している!
世界で日本を知らない人はいない!
日本のトイレは世界一ハイテク!
日本の電車は世界でいちばん時間に正確!
日本の旅館のおもてなしは世界一!
日本の街は世界でもっとも清潔!
日本の食べもの・料理は世界でも最高レベル!
日本の治安の良さは世界で群を抜く!
日本の教育レベルは世界トップレベル!
日本の職人がつくるネジの正確性は世界一!

こうした「日本スゴイ! コンテンツ」のなかには、もちろん真実も含まれているのですが、どうでもいいネタを大袈裟に強調したフェイクニューススレスレなものも少なくありません。(pp.3)

本書は、昨今のある種の日本人に顕著な「日本スゴイ」意識にたいし、異論を唱えるお気もちに駆られて執筆されたものです。

著者(1975年生まれ)は、イギリス、アメリカ、イタリア、で働いたご経験がおありで、勤務先は国連専門機関さらに多国籍企業。

その結果、『世界でバカにされる日本人』は、主として欧米の文化や欧米の労働現場から日本の短所・長所を眺め、検討した、内容となっています。

日本人は相手の立場を考えない、環境を守ろうとしない、長時間働きがちなのはひとりひとりの生産性が低いため、マスコミに所属する諸氏が勉強不足、女性差別が激しい、といった各種短所の考察がなされました。

世界で日本が注目されているわけではない、諸外国からなめられている、おちぶれた哀れな国と受けとめられている、などの実態も語られています。

いっぽう、日本の長所として、勤労者がモラルを有している、学習意欲および教育レベルが高い、治安が良い、ことをあげられました。

短所であれ長所であれ、すでに他のどなたかが言及している事柄が多かった半面、今回、わたしがはじめて気づかされた指摘も含まれていました。

ただ、データにはほとんど基づいておらず、しばしば、著者の周囲の人たちの私的な意見、ネットに散見される書き込み、のたぐいが参照されています。

そのせいでしょうか、わたしとしてはご意見に全面的には賛成できない箇所が少なからずありました。

賛成できなかった例を、ふたつ引用します。

欧米においては、

なぜ部活でマネジャーというのが女子ばかりなのか、なぜゲームに参戦しないのにクラブ活動をしているといえるのか、なぜ無償で労働をしているのか、といったことを疑問に思う人がいるのです。(pp.102)

そうかもしれません。

しかし、身近にレギュラー争いと無関係な部員がいる、同世代の異性がいる、という状況を設けたのは、部内のとげとげしい雰囲気をやわらげるための工夫、日本の若者たちの知恵だった、ともいえるでしょう。

夏に半そでを着始める日付が決まっている「クールビズ」は実におかしなことのひとつです。気候は不安定なものでああり、毎年同じ日に同じ気温・湿度であるということはありません。さらに人それぞれ筋肉の量や温度に対する感覚だって違うのだから、自分で暑い、寒いと思う感覚に合わせて好きなものを着ればよいのです。(pp.108)

職場では(個々の社員の空腹の度合いはさておき)昼食時間が定まっているし、学校では(その年の暑さの程度はどうあれ)決まった日に夏休みがスタートします。

こうまで目くじらを立てる必要はなかったのではないでしょうか?

ついでながら、第4章「お笑い!万国バカ博覧会」は蛇足にすぎず、紹介されていたジョークもまるでおもしろくありませんでした。

もうひとつ、わたしの個人的な好みの押しつけなのですが、文中「!」の使用を抑えるべきだったと思います。

この『世界でバカにされる~』がめざしたのは、

現実から目をそらしている平和ボケした日本人に新たな警鐘を鳴らし、混迷の時代をグローバル視野で生き抜くための視点・生き方を提示していきます。(pp.7)

めざした地点にしっかり到達したわけではないかもしれないものの、大事なところをめざされたと考えます。

金原俊輔

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