最近読んだ本479:『決定版 HONZが選んだノンフィクション』、成毛眞 編著、中央公論新社、2021年
「HONZ」とは、ノンフィクション愛読者たちが集まって書評を発表し合う、インターネット上のサイト。
このサイトのリーダーが成毛氏(1955年生まれ)です。
在籍メンバーは「25人前後(pp.360)」の由でした。
2012年、HONZによる『ノンフィクションはこれを読め!』紙媒体シリーズがスタートし、以来、わたしは同シリーズの推薦をもとに書籍を購入することが少なからずあって、重宝しました。
推薦に従ったのは、たとえば、
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』、増田俊也 著、新潮社(2011年)「最近読んだ本3」
『理系の子:高校生科学オリンピックの青春』、ジュディ・ダットン 著、文藝春秋(2012年)「最近読んだ本1」
などです。
従った甲斐がありました。
けれども、残念ながら、シリーズは3年ほどで途絶えました。
2021年、ひさしぶりに『HONZが選んだノンフィクション』が出版され、嬉しく思った次第です。
HONZ書評の特徴は、書き手に文章の素人が多いため、玉石混交な内容である点。
弱みかもしれないものの、こちらとしては気になりません(だいたい当コラムだって素人が書いているわけで)。
気にならないどころか、完璧ではない批評文からメンバー諸兄姉の「これをお勧めする、ぜひ目を通してほしい」という熱意が滲みだしてきて、好感をおぼえます。
おもしろい話題の引用や要約が引きも切らずあり、例をあげれば、HONZメンバー土屋敦というかたは動物行動学の専門書を激賞するなかで、
ちなみに犬を飼う際、非常に実用的な子犬の選び方が本書には載っている。まず子犬を仰向けにして胸に手を載せる。子犬はやがて自分で起きようとするが、子犬が起き上がれない程度に力をかける。そのときの振る舞いで攻撃性や不安性がわかるという。(pp.81)
役立つ情報を提供してくださいました。
堀内勉メンバーが取りあげたのは経営者の自伝。
つまり、グローバル企業が著名なアートスクールに幹部候補を送り込むのは、これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできないという認識があり(後略)。(pp.184)
そんなビジネス界の風潮を記されました。
ノンフィクションはフィクションにくらべ粗筋(あらすじ)紹介の難易度が高いと想像されますが、本書では執筆陣が一所懸命工夫をこらし、売れ行きに悪影響してしまいそうな「ネタばらし」は控えて、全100冊の魅力を語られます。
すべて買いたくなってくる……。
『HONZが選んだノンフィクション』は、大いに読み、大いに書き、知的人生を享受されている、うらやましいグループの書評集でした。
最後になります。
田中大輔メンバーは、ある作品を評しながら、
飽きさせることなく、後半にいくにつれて読み終わってしまうのが寂しい。そんな思いを抱かせる1冊だった。(pp.352)
ノンフィクションをひもといている途次、わたし自身もしょっちゅう引用みたいな嘆息にいたるので、「ああ、みんな経験しているんだな」との感懐をもちました。
金原俊輔