最近読んだ本668:『ヒット映画の裏に職人あり!』、春日太一 著、小学館新書、2024年
本書は、現在の日本映画を支えるスタッフたち、12名のインタビュー集だ。(P. 3)
著者(1977年生まれ)が「はじめに」でお書きになっていた上記文章どおりの内容でした。
各インタビューで紡(つむ)ぎだされてくる、全編に通底しているテーマは「映画の『職人』の仕事そのもの(P. 5)」。
わたしがこれまでひもといてきた台湾関連の多数の書籍によれば、台湾のかたがたは「日本人には職人精神がある」と評価してくださっている由で、このことに胸を打たれた半面、当方「過去の匠や名工が大事にしていた職人精神を現代の同業者たちはどれぐらい保持しているのだろうか」と、やや疑ってもおりました。
『ヒット映画の裏に職人あり!』を読むかぎりにおいて、わが国の職人精神はいまだ健在であるみたいです。
良かった。
それでは、職人精神に関連する例をいくつか紹介しましょう。
まず、映画の音響効果を担当なさっている柴崎憲治氏(1955年生まれ)のご発言。
僕自身は職人だと思っているんですよ。一人で、自分のやるべきことに全力を尽くす。ものを作る人間は、みんなそうだと思っています。職人であることに、僕らの誇りがあるような気がするんです。(P. 122)
つぎに、『ゴジラ -1.0』で戦闘機・震電を作成した鉄の道具がご専門の「撮影美術製作」大澤克俊氏(1967年生まれ)は、
百の要望を言われたら、二百で返してやろうとか、三百で返してあげなきゃって。(P. 181)
最後に、ポスターデザイナーでいらっしゃる中平一史氏(生年不詳)。
私はアーティストや作家の方々とは異なります。
ですから、私自身の主張が出た「アート作品」にならないように心がけています。(P. 311)
どのお言葉も日本の歴史に脈打つ職人気質を継承しているからこそ発されていると見なせます。
「お手本にしなければならない」こんな読後感にいたる作品でしたし、すこし大仰かもしれませんが「日本はまだ大丈夫のようだ」とも思いました。
ドイツでは「マイスター(親方、高レベルな職人)」が減少しだしているという話を聞きますので、本邦はがんばってほしい……。
ところで、書中で語られていた『カメラを止めるな!』という自主映画が、笑いや感涙に満ち、どんでん返しすら仕込まれているらしく、何だかとてもおもしろそうでした。
金原俊輔