最近読んだ本680:『キャラヴァンは進む:銀河を渡る Ⅰ』、沢木耕太郎 著、新潮文庫、2025年
紀行やスポーツ・ノンフィクションさらには評伝で有名な沢木耕太郎氏(1947年生まれ)による短編集です。
本書では、沢木氏の他のほとんどのご著書と同じく、対象への客観的まなざしと執筆するご自身の主観的な追懐とが絶妙に交錯。
お若かったころに世界各地で遭遇されたできごと、何かに打ち込むかたがたの魅力あふれる人間像、などが書かれていました。
ページを繰る時間がゆったり流れ、けれども氏が語る話題に触発されて読む側の頭の中が活性化しだす、そんな作品です。
わたしの印象に強くのこったのは78ページ「鏡としての旅人」項でした。
同項からふたつの文章を引用させていただきます。
まず、日本を訪れたアジアの観光客が、
日本人にとってはなんでもないこと、つまり、清潔なこと、親切なこと、おいしいことといったようなものに心を奪われているらしいのだ。(P. 82)
沢木氏は上文を2015年に記されました。
爾来10年が過ぎ、現況がどうなっているかというと、アジア圏の人々にとどまらず、さまざまな外国人が日本を「清潔」「親切」「おいしい」と感じてくれている模様です。
たいへん嬉しいものの、わが国のそうした魅力で訪日者が急増した結果、トラブルまでもが増えてしまっていて……。
つぎに、三島由紀夫(1925~1970)は、
日本への祈りを込めたその原稿の末尾に、「世界の静かな中心であれ」という一文をしたためた。(中略)
そのメッセージを使わせてもらえるなら、経済成長を目指してひたすら驀進(ばくしん)しているかのように見えるアジア諸国にとって、日本は「アジアの静かな中心」となるべき存在のように思える。(P. 83)
国家のどんなありかたを「静かな中心」と見なすのかについては、述べられていませんでした。
近年の英国みたいなイメージ?
わたしはいささか不同意です。
経済が停滞し、俗に言う「失われた30年」を経験したばかりか、いまだ現在進行形で「失われた」を経験している日本。
明るい未来が視界に入ってきません。
そこで、「アジアの静かな中心」のほうは適度に目指しつつ、改めて「経済成長」を全力で目指してゆきたい、経済再成長を達成したい……、こう願っているのです。
それが「私たちにとって大事なこと(P. 82)」なのではないでしょうか?
『キャラヴァンは進む』のおかげで充実した数日間を過ごせましたから、わたしは直ちに、
『いのちの記憶:銀河を渡る Ⅱ』、沢木耕太郎 著、新潮文庫、2025年
も読みました。
金原俊輔