最近読んだ本683:『工藤會事件』、村山治 著、新潮文庫、2025年

福岡県北九州市に本拠を置く「暴力団工藤會(くどうかい)(P. 3)」。

工藤會の凶暴性は全国のヤクザの中でも突出していた。(P. 50)

なぜかといえば、

山口組、稲川会、住吉会などの指定暴力団は、暴力団同士の抗争で殺し合いはするが、市民に銃は向けない。(P. 70)

上記に対して、工藤會のほうは、

暴力団追放運動に協賛する市民や企業を次々と襲撃してきた。(P. 3)

……だからです。

北九州市民たちはさぞかし怯(おび)えていらしたことでしょう。

2014年、業を煮やした警察および検察が、

機動隊や捜査員の大量投入で工藤會の動きを封じ、その間に捜査態勢を立て直した警察庁の決断。
その後の検察庁との緊密なコラボレーション(協働)のもと、一気に頂上を攻略した戦略、戦術は見事だった。(P. 15)

その結果、

そして「頂上作戦」開始以来、工藤會が関与したとみられる一般市民の死傷事件は1件も起きなかった。「頂上作戦」によって、北九州市民の体感治安……安全・安心感は格段に改善された。(P. 304)

組事務所も相次いで撤去された。市民は安心・安全を実感し、企業も街に戻る気配が見え始めた。(P. 321)

まさしく「見事だった」。

本作品には、「文字通り身体(からだ)を(P. 133)」張り、「腹をくくって(P. 295)」、工藤會という「テロ集団と化した(P. 14)」暴力組織に立ち向かってゆく警察官・検事・裁判官がつぎつぎ登場してきました。

非常に頼もしく思います。

一例をあげましょう。

事件捜査はラグビーの試合に例えられる。(中略)
工藤會事件の捜査でのフォワードは、間違いなく、加害者側の工藤會関係者を取り調べ、供述を引き出した県警の警部補や巡査部長たちだった。
その供述をブラッシュアップしてより固いものにし、トライ(起訴)に持ち込むバックス役を地検小倉支部検事の上野正晴や上田敏晴たちが担った。
上野たちは、時には、密集でのジャッカルで相手からボールを奪い、フォワードとともにスクラムトライを狙うこともあった。(中略)
取調官が工藤會幹部から恫喝(どうかつ)を受けることも少なくなかった。
「家どこだ。家族、皆殺しにするぞ。お前の家族、知っているぞ」(P. 195)

尽力された皆さまに満腔の敬意を表し、衷心よりご苦労をねぎらいたく存じます(引用文中、ラグビーのたとえが用いられ、ラグビー経験者である当方は嬉しかったのですが、次第にたとえが濃くなってゆき「ジャッカル」だの「スクラムトライ」だのが出てきた折には、それがどんなエピソードを指した比喩表現であるのか見当がつきませんでした)。

いっぽう、わたしは『工藤會事件』書を読みつつ、本気になったら「目的のためには手段を選ばない(P. 134)」で捜査をおこなう、国家の凄みを感じました。

国がこうした本気を見せるのはあくまで暴力団対策ぐらいに限定してもらわなければなりません。

金原俊輔