最近読んだ本690:『俺たちの昭和後期』、北村明広 著、ワニブックスPLUS新書、2025年

昭和40年(1965年)のお生まれでいらっしゃる北村氏。

昭和46年(1971年)から昭和64年(1989年)までを「昭和後期(P. 7)」と位置づけられ、その間(かん)の日本社会を展望なさいました。

歴史書ではない。エンタメ書である(後略)。(P. 10)

上記のとおりテレビ番組や芸能界のエピソードが多かったです。

わたしは長らくテレビを視聴せず、芸能界にも興味がないため、そうした部分を読むのは端折(はしょ)りました。

では、全体の読後感は……?

あれこれの話題が軽やかな筆致で語られ、読者を魅了する作品でした。

著者より10歳年上であるわたしも追体験できる文章が少なからず書かれていて、なつかしかったです。

たとえば、昭和後期世代の彼ら・彼女らが子どもだったころ、

極めて重要なのがおやつタイムだ。(中略)飲み物とおやつ本体の組み合わせで、残酷にもその家の地位を判断してしまう俺たちだった。コカ・コーラと湖池屋のポテトチップス・のり塩味が出てきたときは雷のような衝撃だった。(中略)「こんなおいしいものが世の中にあったのか」(後略)。(P. 148)

よく分ります。

職業人となったときに導いて下さったのは、

当時の熱き大人たちだ。(中略)
昭和後期世代が社会に出た頃には、仕事に脂が乗り切っていた先輩たちだ。見本であり、厳しく指導にあたってくれた。時には鉄拳を喰(く)らうこともあった。「俺の酒」を呑(の)まないわけにはいかないし、絶対的な存在だった。
おかげで一人前になれた。(P. 52)

たしかにそういう面がありました。

つぎの感想へ進みます。

わたしは『俺たちの昭和後期』を読みながら、時代が人々におよぼす影響の強さを思わずにはいられませんでした。

一例として、北村氏がテレビの『仮面ライダー』シリーズに触れた箇所。

悪と戦うヒーローたちには、どんな苦境にもへこたれない、不屈の精神が込められていた。
正義感が生きるベースとなった。美しい心の尊さも教えてくれた。
昭和後期世代の熱源として、今も胸に在り続ける。(P. 59)

あるいは、第8章にあった「昭和後期世代のクルマへの偏愛は池沢さとしによってもたらされた(P. 191)」項で、

昭和後期世代にとって、クルマはいつだって夢であり、憧れであり、関心ごとだった。
若かりし日に、女の子狩猟ツールだったクルマは、草食などと呼ばれて久しい現代では不必要なモノに成り下がってしまった。所有する価値観が見出せないそうだ。(P. 198)

時代が人間に影響すること自体は常識的に理解できますし、また、社会心理学の諸研究もそれを裏づけています。

北村氏の場合、状況証拠を交え、おもしろおかしくその旨を主張なさるところに力量を感じさせられました。

最後に、本書では述べられなかった事柄なのですが、ページを繰りつつ、ふと気づいた件です。

北村氏の分類にしたがえば、昭和中期「第三期(P. 3)」に含まれる昭和41年(1966年)。

いわゆる丙午(ひのえうま)の年でした。

その結果、迷信にまどわされ、産み控えが起こって、わが国では直前の年や直後の年よりも出生者数が減ってしまったと聞いています。

そして来年(2026年)は60年ぶりの丙午で、1966年とは異なり、深刻な少子化真っ只中における丙午。

出生率がいっそう低下して泣きっ面に蜂とならぬよう、政府・地域・メディア等々は予防策ならびに対応策を講じておくべきと考えます。

金原俊輔