最近読んだ本722:『コナン・ドイル伝:ホームズよりも事件を呼ぶ男』、篠田航一 著、講談社現代新書、2025年
名探偵シャーロック・ホームズの生みの親であるアーサー・コナン・ドイル(1859~1930)に関する評伝です。
コナン・ドイルの作品を解説した書籍数は膨大ですし、種々の本を通してコナン・ドイル自身の「ホームズよりも事件を呼ぶ」波乱に満ちた人生も語られてきました。
そのため、わたしはこの『コナン・ドイル伝』に、たくさんの新情報を期待してはいませんでした。
しかし、良い意味で予想が外れました。
著者の篠田航一氏(1973年生まれ)は、コナン・ドイルのほぼ全ての作品を注意深くお読みになり、イングランドやスコットランドにも足を運ばれて、充実した内容の伝記を書いてくださったのです。
わたしが知らなかった情報だらけ。
たとえば、コナン・ドイルは、
豪華客船タイタニック号の沈没事故の際、新聞紙上で作家仲間のジョージ・バーナード・ショーと激論を交わした。(P. 6)
著名な両者にこんな交錯があったとは……。
つぎの例として、
1900年10月にドイルはロンドンで講演する機会があった。
演壇に一緒に立ったのは、選挙に当選したばかりの若き新人議員だった。(中略)
この若き議員の名は、ウィンストン・チャーチル。(中略)
ドイルとチャーチルは19世紀最後の年のある日、こうして一瞬だけ、同じ場所で同じ空気を吸っていたのだ。(P. 114)
歴史に足跡をのこした二人が遭遇していたわけです。
そのほか、計4名の日本人が別々の時期にコナン・ドイルと会ったことも紹介されていました。
4名のうちのひとりは「大富豪の薩摩治郎八(1901~76年)(P. 174)」だったそうです。
残念だったのは、「ロンドン・シャーロック・ホームズ協会」議長キャサリン・クック氏がなさったご発言。
「ドイルの多くの作品は、実は近年はそれほど読まれていません。しかし『失われた世界』は例外で、今も子供たちにかなり読まれています」(P. 181)
かつて圧倒的だったシャーロック・ホームズの人気と影響力が減じてしまったのだなと思いました。
いずれにしても詳しくお調べになった篠田氏のお骨折りに感謝いたします。
楽しい読書でした。
ここで話を大きく変え、以下、文学者たちをあつかった評伝のうち、得るところの多かった10冊を紹介させていただきます。
わたしは先般、日本の作家・俳人・エッセイストを取り上げた書籍の紹介をおこないました。「最近読んだ本719」
今回は外国人文学者対象のものといたします。
すでに当コラムで評した伝記類は除外し、また、出版年が古い作品から順に並べました。
第1位 『トルストイの生涯』、ロマン・ロラン 著、岩波文庫、1960年
第2位 『ロバート・フロスト研究』、片岡甚太郎 著、北星堂書店、1972年
第3位 『ノーマン・メイラー』、ロバート・F・ルーシッド 著、冬樹社、1976年
第4位 『書いた、恋した、生きた:ヘミングウェイ伝』、佐伯彰一 著、研究社、1979年
第5位 『アガサ・クリスティーの生涯 上・下』、ジャネット・モーガン 著、早川書房、1987年
第6位 『大草原のローラ:90年間の輝く日々』、ウィリアム・アンダーソン 著、講談社、1994年
第7位 『チャーチル:イギリス現代史を転換させた一人の政治家 増補版』、河合秀和 著、中公新書、1998年
第8位 『マーク・トウェイン新研究:夢と晩年のファンタジー』、有馬容子 著、彩流社、2002年
第9位 『謎ときシェイクスピア』、河合祥一郎 著、新潮選書、2008年
第10位 『魯迅:東アジアを生きる文学』、藤井省三 著、岩波新書、2011年
第2位のロバート・フロスト(1874~1963)は米国の詩人で、当方が師と仰ぐ心理学者B・F・スキナー(1904~1990)の文章指導をしたことがあったため、わたしはスキナーが主題の論文執筆時に『ロバート・フロスト研究』を参照しました。
ちなみに、スキナーのライバル的存在だったカール・ロジャーズ(1902~1987)という心理学者は、子どものとき、第4位のアーネスト・ヘミングウェイ(1899~1961)と同じ町に住んでいました。
第6位は、テレビドラマ『大草原の小さな家』の作者であるローラ・インガルス・ワイルダー(1867~1957)の生涯をつづった本です。
第7位に置いた作品の主人公ウィンストン・チャーチル(1874~1965)は、副題にもあるように「政治家」ですが、1953年にノーベル文学賞を受賞しているので文学者に含みました。
金原俊輔

