『汝、ふたつの故国に殉ず:台湾で「英雄」となったある日本人の物語』、門田隆将著、角川書店、2016年。

すばらしい本と出会いました。

日本人を父にもち、台湾人を母にもった、湯徳章氏(日本名は坂井徳章氏、男性)の人生を描いたノンフィクションです。

湯氏は1907年(明治40年)、台湾の台南市に生まれ、1947年(昭和22年)に台南市で国民党の軍隊に銃殺されました。

青年時代、日本の中央大学で学び、ご努力ののち、高等文官司法科試験(いまの司法試験)そして高等文官行政科試験(いまの国家公務員上級試験)のどちらにも合格しています。

柔道が強く、3段を所持されていました。

抜群に頭脳明晰で体力もあり、努力家、さらには人柄も立派、そのような人物でした。

台湾を心から愛し、台湾を自由で民主的な国にするために精魂をかたむけられました。

ご家族も活動を支持されていた模様です。

上掲書には、完成度が高いリーダー的な人が、命をかけて社会の変革をめざした、朋友たちを守ろうとした、という史実がくわしく書きこまれています。

圧倒的なおもしろさでした。

ところで、同書を読んでいたときに、わたしは「タイトル内の『ふたつの故国』という表現はちょっと違うのではないか」と感じていました。

なぜならば主人公にとっての故国はあくまでも台湾であったはずだからです。

しかし、やがてわかりました。

湯氏は銃殺される直前にある言葉を叫び、叫んだその言葉はまさに彼における「ふたつの故国」が噴出したものだったのです。

わたしは胸が一杯になりました。

同氏がどのような言葉を叫んだかは、この書物において最も重要な部分ですので、無断で紹介することを控えます。

著者(1958年生まれ)の他の作品として、わたしは以前、

『この命、義に捧ぐ:台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』、角川文庫(2013年)

を読みました。

これもまた、根本中将というかたの人間性に惹きつけられる、優れた本でした。

台湾と日本の緊密なつながりを改めて知ることもできます。

いずれにしても、わたしは『汝、ふたつの故国に殉ず』で受けた感動があまりに深く、なんだか次の本を買いに行く気が起こりません。

金原俊輔