『哲学散歩』、木田元著、文春文庫、2017年。

木田元(1928~2014)は高名な哲学者でした。

著書も多いかたです。

しかし、わたしの場合、これまでほとんどご縁がなく、『反哲学史』、講談社学術文庫(2000年)を読んだ程度でした。

今回、書店で『哲学散歩』を立ち読みした際に「哲学と心理学の縄張り争い」という章があるのに気づき、心理学者として興味をいだいて購入した次第です。

ですが、当該章にはがっかりさせられました。

わたしが信奉する行動主義心理学だの行動療法だのにたどりつく前に話が終了し、「そこまで話を広げる余裕はなさそう、他日を待つしかない(pp.172)」と書かれていたからです。

いっぽう、それ以外の各章は充実しており、読みごたえがある内容でした。

幾人もの哲学者たちの逸話が紹介されています。

とりわけハイデガー(1889~1976)関係の記述がたっぷりで、著者がハイデガーに寄せる熱い想いが伝わってきました。

さて、ドイツの哲学者アルトゥール・ショーペンハウアー(1788~1860)。

彼は実母と仲が悪く、実母は息子の才能よりも自身の才能のほうを高く買っていたらしいです。

ゲーテ(1749~1832)来宅時に、

アルトゥールはゲーテに深く心服していたし、ゲーテもこの若者の優れた資質を見ぬいていた。だが、ゲーテがその息子の才能を表立って評価すると、母親は一家から天才が二人出たなんて話は聞いたことがないと激怒し、息子とゲーテとを一緒に階段から突き落としたという。(pp.159)

……だそうです。

本エピソード、どこでどう勘違いしたのか、わたしは長らくニーチェ(1844~1900)と彼の母親のあいだで起こった事件と信じこんでしまっていました。

上掲書に目を通したおかげで62歳にしてようやく自分の誤りに気づくことができました。

金原俊輔