『ノーベル賞の舞台裏』、共同通信ロンドン支局取材班編、ちくま新書、2017年。

ノーベル賞にまつわるさまざまな秘話を紹介した本で、日本人受賞者・候補者の話題が多く、読みごたえじゅうぶんでした。

たとえば文学賞。
三島由紀夫(1925~1970)が候補となっていた由です。

63年の候補者は全部で80人。そこから選考委員会によって6人まで絞り込まれた中に、三島はいた。三島を推薦したのは、オランダの東洋学者として知られ、日本文学にも詳しかった米エール大のヨハネス・ラーデル教授だ。(中略)三島は最後の3人には残らなかったものの、初の候補入りながら受賞まであと一歩の位置にいたことは確かだ。(pp.21)

上掲書によれば三島は「左翼」と勘違いされたため受賞を逃したとのこと。
三島を左翼とは……。
本人は死んでも死に切れないでしょう。

現在なにかと受賞の期待が大きい村上春樹氏(1949年生まれ)については、

村上作品には、自身も詩や小説を書いたノーベルの遺した「理想主義的」とは方向性が違うという指摘は根強い。近年、文学賞の受賞者発表前のスウェーデン紙が掲載する評論家の見方も、村上への肯定的予想は多くない。むしろ「取ってほしくない作家」と手厳しい評価もある。(pp50)

けっこう困難そうでした。
わたしは村上氏のファンではなく、彼の作品よりも『ワイルド・スワン』で知られるユン・チアン氏(1952年生まれ)の諸作を愛読してきたので、彼女に受賞してほしいと願っています。

つぎに物理学賞・化学賞・医学生理学賞の件。

近年、日本人の受賞がつづきました。
とはいえ、

中国の科学論文の絶対数は既に日本を上回っている。そして、その国の科学研究のレベルを測る指標の一つである論文の被引用回数においても、高い伸びを示しているのだ。日本政府関係者は「中国の(中略)研究レベルの向上が日本にとって脅威になっているのは間違いない」と打ち明ける。(pp.90)

状況なのです。
当該傾向はわたしも知っており、憂慮していました。
日本には学問を重視する文化があって、研究の世界にあこがれる子どもたちも決して少なくありません。
まずはこの風潮を大事にしてゆきたいものです。

そして平和賞は、2014年にパキスタンのマララ・ユスフザイ氏(1977年生まれ)が受賞。
ユスフザイ氏はもともと、

英BBC放送のウルドゥー語のブログでペンネームでの告発を始めたわけだが、学校経営者でもあった父ジアウディンが実はこの内容に深く関与していたのではないかとの噂は、地元では早い段階からささやかれていた。つまり「父親の操り人形」なのではないかという見方だ。(中略)
受賞発表のその日、マララの故郷スワトも静まりかえり、祝福の雰囲気とはほど遠いものがあった。学校の同級生らも、マララの名前を出すことを明らかにためらっていた。(pp.129)

意外な事実でした。

さらに、経済学賞ですが、日本人受賞の可能性は、

ノーベル経済学賞の歴史に詳しい内閣府経済社会総合研究所の堀雅博・上席主任研究官は「知っている範囲では、将来取りそうだという水準にある人はいない」と言い切る。(pp.226)

とのこと。
残念に思います。

以上、『ノーベル賞の舞台裏』はしっかりした取材に基づいた労作でした。

最後に余談ながら、わたしがこれまでに読んだノーベル賞がらみの本のうち、最も印象に残っているのはニコラス・ウェイド著『ノーベル賞の決闘』、同時代ライブラリー(1992年)です。

ノーベル賞を獲得するため高レベルな科学者たちがどれほど研究に心血をそそいでいるかを知りました。

金原俊輔