『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』、伊藤公一朗著、光文社新書、2017年。

必携の書でした。

われわれはデータ分析の力を育み、事象の因果関係を見極めることができるようになって、それを学問・政策・ビジネスの諸分野で活かすべき、こうした主張が書かれたものです。

研究に携わる人たちはご自身の分析力を高めるために、あるいは「おさらい」の意味でも、読んでおいたほうがよい一冊でしょう。

伊藤氏(1982年生まれ)が『データ分析の力』で紹介されている研究法は、RCT(ランダム化比較試験)、RDデザイン(回帰不連続設計法)、集積分析、パネル・データ分析、以上の4種類でした。

長くなりますが、これらのうちのひとつを駆使したアメリカの研究例を引用します。

店頭で商品を売る際に、税込価格を表示するのと税抜き価格を表示するのとでは、どちらがたくさん売れるか、この問いを解明しようとするRCT実験でした。

スタンフォード大学のラジ・チェティ教授らの研究グループは、この問題に答えるために、スーパーマーケットと協力をしてRCTを行いました。この実験が革新的だったのは、税込価格の表示という実験を実験室ではなく、実際のスーパーマーケットの店舗内というフィールドで行った点です。
まず、サンプルに選ばれた店舗をランダムに介入グループと比較グループに分けました。さらに、介入グループの店舗で販売されている商品のうち、ランダムに選ばれた商品群だけに「税込価格」を表示しました。(中略)
このRCTの結果、明らかになったのは、
「税込価格を表示すると、税抜き価格を表示した場合に比較して平均的に8%売り上げが下がる」
という因果関係でした。(pp.215)

つまり、税抜き価格で陳列した商品のほうが多く売れたのです。

おなじ品物でも税込価格で示すと売れゆきが悪かった……。

たいへん興味をそそられる結果でした。

「本体価格100円、税込価格108円」のように併記で表示した場合はどうなるのか、という疑問が起こりますが。

さて、著者はアメリカ・シカゴ大学大学院の助教授です。

環境経済学を専攻なさっている由でした。

わたしの専門は臨床心理学で、当方の領域においては「一事例の実験デザイン(シングルケース研究法)」が重んじられています。

一事例とはいっても、ひとつの企業、ひとつの流行、ひとつの国家など、大規模な対象をもあつかうことができます。

本書が上記の話題に触れなかったのは不思議でした。

わたしはけっして研究法だの数理統計だのを自家薬籠中(じかやくろうちゅう)のものとしているわけではありません。

ただ、著者が推された4種類と一事例の実験デザインとを組み合わせた学術的な取り組みは、困難ではないように思われました。

困難でないどころか、おそらくかなり突っこんだ研究ができるのではないでしょうか。

金原俊輔