『宿命 習近平闘争秘史』、峯村健司著、文春文庫、2018年。

中国の第7代国家主席・習近平氏(1953年生まれ)。

本作は、この習氏を話題の中心にしつつ、全体的には現代中国の政局をつまびらかにした内容でした。

隣国であるわが国の話も当然たびたび出てきます。

とくに第5章「反日狂騒曲」においては、過去、中国の要人諸氏が親日的となったり、反日的となったり、正反対に揺れ動いた展開の、政治的な理由が詳述されていました。

まとめれば「中国と日本の歴史的な関係」という要素だけではなく、そのときどきの中国政治家たちの出世競争や力関係、政治家自身が同僚・国民から下されるであろう評価の予測などが、つまりは内政的事情が、「中国は(自分は)日本とどのように接するべきか」を判断する際の要素として大きく作用した模様です。

説得力を有する解説でした。

著者(1974年生まれ)は新聞記者。

かつて「北京特派員」だったそうです。

ご自分のお立場や中国勤務時代の人間関係を利用しながら、しかも膨大な資料を渉猟し、多数のインタビューをおこなったうえで、本書を出版されました。

おそらく中国という国家の実像を活写している一冊でしょう。

ただし……。

本書の第2章は、アメリカ留学をなさっていた習氏のお嬢様の消息を探求したルポルタージュでした。

お嬢様のクラスメートに取材もなさっています。

ご本人はたんなる東洋人学生として静かに暮らしていらっしゃったわけですから、わたしは「そっとしておいてあげれば良かったのに」と思いました。

いっぽう、同章で描かれたそのお嬢様のご様子は、

辣椒作画『マンガで読む 嘘つき中国共産党』、新潮社(2017年)

に登場する当人像とは、ずいぶんちがっていました。

『マンガで読む~』は、中国から日本へ亡命したマンガ家・辣椒(ラー・ジャオ)氏が発表した作品です。

わたしには「辣椒氏の情報のほうがより真相に近いのでは」と想像され、もし想像が当たっているとしたら、果たして『宿命~』全般の信憑性はどうなのだろうか、という疑念を抱いてしまいました。

そのほか、(こんどはお嬢様の件ではなく)習氏の人間像に関しても、ほぼ同時期に読了した、

石平、黄文雄共著『習近平の帝政復活で中国が日本に仕掛ける最終戦争』、徳間書店(2018年)

宮崎正弘著『アメリカの「反中」は本気だ!:アジア争奪の米中貿易戦争が始まった』、ビジネス社(2018年)

とは、かなりの相違を感じました。

複数の人々がひとりの人物に異なった印象をもつことは、むろんあり得ます。

しかし、国家元首のような存在に対してはそこそこ定まった見方が必要なのではないか、そのための情報収集および情報共有が大事なのではないか、と考えました。

いずれにしても『宿命~』は、台湾や韓国でも訳書が刊行された由ですので、向後の日本の針路を検討するために参照すべき文献ではあるみたいです。

金原俊輔