『世界史を変えた詐欺師たち』、東谷暁著、文春新書、2018年。

東谷氏(1953年生まれ)が上掲書にて論及された「詐欺」とは、他者に多大な被害をおよぼす犯罪的言動のみに限られたものではありません。

犯罪としての詐欺と、政策としての詐欺的なものとの境界は、実は極めて曖昧なのだ。いや、確固たる政策にも明らかに詐欺となる要素がいくらでも含まれている。(pp.14)

ポンド売りのさいのドイツ高官から得られた「情報」にせよ、ロシア当局からのロシア国債買い支えの依頼にせよ、他の市場におけるプレイヤーが手にできない「濃い情報」を持っているとするならインサイダー取引であり、もし、単にそうした情報を流すことによって自分に有利な取引を行っているとすれば「詐欺師」ということになる。(pp.237)

このように「結果的に多くの人々に迷惑をかけたおこない」的な、広い意味合いの語として用いられています。

そして、前半はおもに紙幣がらみの詐欺師たち、後半は金融詐欺師たち、を詳説なさいました。

まず前半、著者は、

現代のわれわれにとって、紙幣はあまりにも当たり前の存在だ。しかし、経済の歴史を概観すれば、金額を印刷した紙きれを通貨として用いることは、けっして当然のことではなかった。(pp.78)

こうした発想のもと、ジョン・ロー(1671~1729)やベンジャミン・フランクリン(1706~1790)らがしでかした詐欺もしくは詐欺っぽい行為を吟味されます。

経済学の基礎知識をもたないわたしには難解な内容でしたが、話題が紙幣だった関係で、少年時代に読んだ松本清張著『西郷札』、新潮文庫(1965年)のことを思いだしました。

後半では、ジョージ・ソロス(1930年生まれ)あるいはケネス・レイ(1942~2006)といった現代経済界の大立て者たちの件が語られ、素人にはいっそう難しくなりました。

それでも本書がすごい労作である事実はわかります。

著者における、研究へのご専心、膨大な読書量、を感取しました。

しかも、まるで海外の経済学者か経済ジャーナリストが書いた専門書の和訳であるかのような、論理的かつ措辞に優れた文章でした。

最終章は、2008年に「ビットコイン」の論文を発表した「サトシ・ナカモト」なる謎の人物に関する考察。

著者がこの章で「仮想通貨」を低評価なさっていたので、わたしは「ご意見に従いたい」つまり「仮想通貨に関わらないようにしよう」と考えました。

金原俊輔