『われは歌えどもやぶれかぶれ』、椎名誠著、集英社、2018年。

椎名氏(1944年生まれ)による、いつもどおりの肩が凝らないエッセイ集です。

氏は74歳になられ、かつておもちだったお元気さも破天荒ぶりも、いまとなってはいくぶん低調になっていらっしゃいました。

とはいえ、一般の74歳男性よりは、元気で破天荒な生き方をなさっているように思われます。

毎月、多人数でおこなっている、海釣りや焚き火の報告。

青森県へ行って本州最北端のラーメンに舌鼓を打った思い出。

冬のシベリアで気温マイナス59度を体験された話。

冷やし中華を世界に広める案。

東京で最もおいしい魚を食べることができる場所の紹介。

新幹線の隣席にどんな人が座るかについての考察。

……興味ぶかい話題がつづきました。

椎名氏の人生は楽しそうです。

ひとつ、わたしが長崎県民として恐縮せざるを得ない残念なエピソードが、中途に含まれていました。

57ページ「長崎・平戸の民宿の悲しすぎる朝食」の章です。

著者はお仲間たちと長崎県平戸市の集落へ赴き、一軒だけある釣り宿に宿泊されました。

夕食に出てきた刺身は良かったらしいのですが、翌朝の食事は、

ごはん、味噌(みそ)汁、カップに入った例のチビ納豆。甘そうなゴマ豆腐。タクアン2キレ。
ここに焼いたばかりの小魚とか、なにかの魚卵系漬物などが出てくるのだろう、と信じつつ味噌汁と納豆でそろそろと食いはじめていたが、厨房はシーンとして朝飯のメインになる筈のおかずが出てくる気配が一向にない。(pp.59)

そしてとうとう何も登場しなかったそうです。

ご一同かなり落胆された模様でした。

しかも、昨夜の刺身は(手づくりではなく)近くの町のホカ弁屋で売られている商品だった、というオチまでが付きました。

みなさま、食を重視される面々ですので、さぞかしがっかりだったことでしょう。

朝食については、わたしだって同じ体験をしたら嘆息を漏らす、と想像します。

刺身の件も同様ですが、言い訳をさせていただくと、魚が新鮮で豊富な長崎県においては、ホカ弁屋さんもごく当たりまえに高レベルな刺身を取りそろえている、という誇らしい状況があるわけです……。

金原俊輔