『異端の統計学 ベイズ』、シャロン・バーチュ・マグレイン著、草思社文庫、2018年。

統計学はさっぱり分りません。

しかし、学問において非常に重要であることは、わたしとて承知しています。

ですので、機会があるときには統計学方面の読書をおこなってきました(そうした機会がおいそれと生じないように気をつけてはいるのですが)。

デイヴィッド・サルツブルグ著『統計学を拓いた異才たち:経験則から科学へ進展した一世紀』、日本経済新聞社(2006年)

この評伝を読んだ際に、「ベイズの異説」なる章があり、ベイズという人名がわたしの記憶にうっすら残りました。

残っているなか、今回、書店において本書『異端の統計学 ベイズ』を見つけてしまったため、しぶしぶ買い求めた次第です。

トーマス・ベイズ(1701または1702~1761)は、イギリスの牧師でした。

アマチュア数学者でもありました。

彼は「ベイズの法則」を発見したものの、自身の法則をあまり喧伝せずに他界。

没後、友人の数学者かつ政治活動家リチャード・プライス(1723~1791)が改めて法則を公表し、有名になったそうです。

ベイズの法則は、

何かに関する最初の考えを新たに得られた客観的情報に基づいて更新すると、それまでとは異なるより質の高い意見が得られる。(pp.13)

以上の内容で、むずかしげな式もあります。

法則は学界から支持され、否定され、もう一度支持され、そして否定され……、こうした数奇な運命をたどりました。

現在はおおむね支持されており、すでにいくつかのノーベル経済学賞受賞に関与したそうです。

522ページの記述によれば、ノーベル経済学賞の受賞者で『ビューティフル・マインド』という書物・映画で知られる、ジョン・ナッシュ(1928~2015)もまたベイズ派だった由。

ひとつの学説の評価が時流にともない変化する例はめずらしくありませんが、ベイズの法則ほど逆転・再逆転を繰り返したケースは稀(まれ)でしょう。

読みごたえがある専門書でした。

ところで、同法則は暗号解読にも応用できることから、『異端の統計学 ベイズ』では第二次世界大戦中の日本海軍の話題も登場します。

当時のイギリス軍は、

太平洋に展開する日本海軍の暗号をベイズの手法で解読することを決めた。日本海軍の主な暗号であるJN-25はしだいに複雑になっており、1943年9月にイタリアが降伏すると、ブレッチリー・パークではすぐさま特に難しい暗号の解読作業がはじまった。(pp.194)

アメリカにおいても、

若き数学者アンドルー・グリーソンは日本海軍の暗号解読に取り組み、チューリングがワシントンに滞在したときにその世話係を務めていたから、まずまちがいなくすでに戦争中にベイズの法則のことを知っていたはずだ。(pp.196)

なんだか「がんばれ日本!」的な気もちが起こってきました……。

金原俊輔