『もし、日本という国がなかったら』、ロジャー・パルバース著、角川文庫、2019年。

日本滞在が50年を超えている著者(1944年、アメリカ生まれ)がお書きになった「日本論」「日本人論」です。

最初は、ご自身が来日されるまでの経緯について。

来日後の章では、井上ひさし(1934~2010)を中心に、各界名士たちとの交友が語られました。

そのあと、日本社会や日本文化の吟味および評価へと進みます。

わたしの場合は吟味・評価のあたりから本書のおもしろさを感じだしました。

たとえば、

日本はきわめて演劇的な国でもあります。(pp.199)

上記のごとく予想外の指摘がなされていて、こういう思わぬ指摘に接する瞬間が外国人の手になる日本論を読むときの醍醐味でしょう。

ちなみに著者は劇作家・演出家でいらっしゃいます。

つづいて、昨今、他書でもよく登場するようになったわが国への「定番」の賛辞、

最もうらやむべき側面の一つであり、世界中の国からもっと理解され、真似されるべきだと思うことが思い浮かびます。それは、日本人の「サービス精神」のことです。
日本のサービスが世界で最高であると言ったのは、なにもぼくが初めてではありません。(中略)
日本の礼節とサービスの文化は、間違いなく、この国の国宝の一つです。(pp.232)

著者も同感みたいです。

いっぽう、パルバース氏は、現代社会のひずみにたいする苦言もお忘れではありませんでした。

氏は日本が世界に貢献できる文物として、マンガ、アニメ、寿司、カラオケ、の4つが代表的であると主張されており、4つの語の頭文字をならべ「MASK現象」とお呼びです。

新しい世代の日本人は、ただひたすらMASK(マスク)文化を楽しみ、一時流行していたオモチャ「たまごっち」あるいは、猫も杓子もまるで6本目の指であるかのように手から離さない携帯電話のスクリーンに逃げ込む生活をずっと続けるつもりなのだろうか?(pp.284)

こう慨嘆されました。

現下の自国自賛の風潮に関しては、

自国の文化をあまりに持ち上げることは、昭和の最初の20年間の歴史を見ればわかるように、悪質なナショナリズムにも発展しかねません。自国の過去と現在を、鋭いバランス感覚を持って眺める必要があることは言うまでもありません。(pp.318)

ごもっともです。

しかし「鋭いバランス感覚」を養うためにまずもって肝要な広範囲の読書を「新しい世代の日本人は」おこなっておらず、スマホの「スクリーンに逃げ込む生活をずっと続け」ているのです。

今後が心配になります。

ところで著者はユダヤ系アメリカ人。

そんな背景もあってか、杉原千畝(1900~1986)の偉業を約20ページにわたって記述されました。

杉原千畝、わたしも尊敬している人物です。

「逆命利君」という表現がありますが、杉原の行為はまさにそれであり、国家の命令にそむき、そむいたことによって結果的に祖国の名を高からしめました。

パルバース氏は「日本人の良心」という視点を通し杉原を偲(しの)んでおられます。

金原俊輔