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『独裁の中国現代史:毛沢東から習近平まで』、楊海英著、文春新書、2019年。

楊氏(1964年生まれ)は中華人民共和国の内モンゴル自治区オルドス市ご出身です。

2000年に日本へ帰化され、爾来、静岡大学で文化人類学者として教壇に立っておられます。

わたしはむかし、勤務していた大学の用事で、内モンゴル自治区へ出張しました。

滞在したのはフフホト市です。

そうとう人口が多い都市でありながら、見渡すかぎりの大草原に囲まれていました。

人々はやさしく、日本人にたいして好意的でした(真心のおもてなしをいただき感謝していますが、アルコール度数が高い蒸留酒には参りました。わたしはその場で倒れてしまい、3日酔いを経験しました)。

さて『独裁の中国現代史』は、内モンゴル側の視座を交えつつ、中国の現代史を総覧した作品です。

仮りに、内モンゴルの視座を本書の横糸とすれば、縦糸は「独裁」でした。

孫文(1866~1925)から話がスタートし、毛沢東(1893~1976)、鄧小平(1904~1997)、習近平(1953年生まれ)、左記3氏に関して多数のページが割かれ、彼らの独裁者ぶりがくわしく記述されています。

文中、陸続と「規制」「禁止」「弾圧」「思想改造」「逮捕」「追放」「処刑」「虐殺」などの言葉が出てきました。

3氏が、ひいては、かの国の共産党政府が、そういう暗黒の体質をもっているためであり、さぞかし国民たちはおきついでしょう。

共産党といえば、

胡耀邦は靖国参拝問題や教科書問題など、日本への対応が手ぬるいことを理由に党総書記を解任されます。(中略)
靖国問題をめぐっては、日本国内でも大きな議論となり、左右両陣営に分断されました。それもまた中国側の狙いどおりです。日本は中国に踊らされているのです。
それを見た韓国が同様の手法で日本を攻撃するようになりました。慰安婦や徴用工問題などでクレームをつけて日本を踊らせる。日本もいちいち踊るから、彼らの術中にはまるのです。(pp.185)

こんなご指摘がありました。

説得力を有するご指摘で、わたしは他の執筆者による類書においても同様のコメントを目にしたことがあります。

つぎに、当代の国家主席に関して私見を述べますと、わたしは毛沢東主席だったころより今のほうが深刻な状況なのではないかと考えています。

なぜならば毛主席には周恩来(1898~1976)というある種の補佐役がいて、政治的活動を遂行してゆく際にいくぶんとはいえバランスを保つ機能が働きました。

習主席はそうしたうしろ盾(だて)をずっと排斥してきているので、今後、独断専行のすえの惨憺たる失政や社会停滞を生じさせてしまうはず、と心配しているのです……。

ところで、わたしは先ほど「国民たちはおきついでしょう」と書きました。

楊氏の考察では、中国には、(1)指導者による独裁、(2)共産党による独裁、(3)漢民族による独裁、以上3種類の独裁がある由です。

当該考察を尊重すれば、単純かつ無責任に「国民たちはおきつい~」などとまとめることはできません。

きついであろう漢民族の国民たちと比べても、さらにおきつい思いをされている層が存在する、それは、たとえばモンゴル人のような人々、と整理すべきでした。

わたしは内モンゴル自治区への出張前に同区関連の史書を数冊読みました。

哀しい歴史であり、新疆ウイグル自治区およびチベット自治区に匹敵する苦難を味わってきたうえ、苦難は現在までつづいているみたいです。

衷心よりお気の毒に存じました。

金原俊輔

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