『闇経済の怪物たち:グレービジネスでボロ儲けする人々』、溝口敦著、光文社知恵の森文庫、2019年。

裏情報サイト、出会い系サイト、デリヘル、危険ドラッグ、カード偽造、金塊密輸、こうした「グレー」なビジネスで活躍・成功している人たちへのインタビュー集です。

ただし、上記のそれぞれは、わたしにはグレーではなく「ブラック」と思えました。

警察のお世話になった登場人物も少なくありませんでしたし。

これは、著者(1942年生まれ)のように長いあいだ暴力団や詐欺師についてお書きになってきたノンフィクション作家と、わたしみたいな一般人との、生きている世界の違い、受けとめかたの違い、から来るものでしょう。

とにかく『闇経済の怪物たち』。

期待にたがわず、わたしを含め普通の人生をすごしている読者にも参考となる箇所が多数ありました。

第3章「堅気のデリヘル王:梅本健治」を参照してみます。

梅本さんが言う。
「会社や役所に入れば、組織に従わなければならない。が、自分にはそれは無理だ、そういう仕事はできないという人がいる。
『じゃ、将来、自分で何かやるつもり?』と聞くと、『そうだ』と答える。
『貯金、いくらあるの?』
『今、貯金ゼロです』
『それってホントに自分で何かやりたいの?』ってことになります。貯金がゼロってことは今の状態になるべくしてなってるっていうこと。あまりに計画性がない。(後略)」(pp.86)

辛口のコメントですけれども、わたしは「おっしゃるとおり」と感じました。

計画性がないばかりか、覚悟も足りません。

第9章「ヤクザ界の高倉健:熊谷正敏」では、

熊谷氏には長年シノギを通して学んだいくつかのルールがある。
まず朝早く起きて、やりたくないと思った仕事から始める。シノギに当たっては最悪の事態を覚悟する。いろいろな変化や条件を想定しながら仕事に臨む。(中略)
どんな事態になっても、わが身に引き受ける気もちがあれば解決していく。(pp.227)

立派な心がまえで、だれにとっても指針たり得ます。

とくに経営者たち・管理職者たちは肝に銘じておくべきではないでしょうか。

そして第8章「詐欺の帝王の新事業:本藤彰」によれば、本藤氏というかたは好きな女性に貢ぎ、一晩で3000万円もしくは4000万円をつかった由です。

「そのころぼくには週に9000万円入っていたから、4000万円ぐらいどうってことなかった」
4000万円ぐらいどうってことなかった……男なら一生に一度は言ってみたいセリフだろう。(pp.200)

こうしたセリフを言ってみたいのは男にかぎらないはず。

わたしにとっての4000万円は「一度はそんなセリフを言ってみたい」ことすら頭に浮かんでこない、大きすぎる金額です。

さて、本書の特徴は登場人物がどなたも魅力的なことでした。

いかなる職場であれ、そこで伸びるためには魅力・人間性が大事なのだと、つくづく教えられます。

しかも皆さま、魅力的なだけではありません。

たゆまぬ工夫をおこない、労も惜しまず、部下を大切にする、そういう人たちばかりです。

多くの読者にとって格好のモデルとなるかもしれない面々でした。

著者は幾度か「堅気として、ふつうの会社に勤めても、優秀な社員として順調に出世したにちがいない(pp.224)」旨の感想を記されましたが、たしかにそのようになると想像されます。

最後のコメントです。

溝口氏は「あとがき」において、

本書は奇書といっていいかもしれない。そうそう類書があるとは思えない。(pp.236)

と述懐されました。

わたしも同じ考えです。

奇書であるし、大人に役立つ「人生の副教材」でもありました。

本書の欠点はただひとつ。

冒頭で述べたように、舞台となっている領域がグレーを超えて限りなくブラックだったことです。

そのため、読者が刺激を受け、語られていた分野への参入をめざして動きだすかというと、おそらくそうした反応を示す人は滅多にあらわれないでしょう。

どうしても「自分に無関係な世界の話」的な読後感にいたってしまうのです。

金原俊輔