最近読んだ本424

『性風俗サバイバル:夜の世界の緊急事態』、坂爪真吾 著、ちくま新書、2021年。

今回のコロナ禍において、歴史上初めて、全国の多くの都市で、一斉に性風俗店の営業が止まった。緊急事態宣言の中、共助としての性風俗が約1カ月間にわたって機能しなくなった。
そのわずか1カ月の間に、全国各地で膨大な数の女性たちが、経済的・精神的に厳しい状況、「生きるか死ぬか」という切迫した状況に追い込まれることになった。(pp.91)

著者の坂爪氏(1981年生まれ)は、こうした事態を打開すべく「性風俗の世界で働く女性の無料生活・法律相談窓口『風テラス』(pp.9)」をとおし応援の手をさしのべつづけておられます。

本書は、前記「風テラス」が関与した各種事例を世に問う社会派ドキュメントでした。

風テラスに所属されるかたがたは、

Iさん「あと1カ月ひきこもれる程度しか、貯金がありません。これからどうするべきか、調べたり、考えたり、行動することも辛いです。このまま死にたいけれど、それもできない。自宅のマンションから飛び降りようとしたけれど、怖くて飛び降りられませんでした。そんな時、ネットの記事で風テラスを知り、思わず連絡しました」(30代・デリヘル)(pp.58)

また、

病気で無職になった夫、子どもの学費、年老いた親の介護、そして住宅ローンを抱えて、自分一人がソープで働いて毎月40~50万円稼ぐことで、どうにか家計を回していたが、コロナの影響で仕事が無くなり、どうしようもなくなってしまった……という相談もあった。(pp.63)

こんな深刻なご相談を毎日お受けになっていらっしゃるそうです。

新型コロナウイルス感染症拡大の渦中、激務・感染危険をものともせず誠実かつ親身なご対応をなさっておられるわけで、わたしは頭が下がりました。

性風俗産業は数兆円規模の市場があり、働く女性は全国で30万人以上いると言われているが、これだけの規模があるにもかかわらず、女性たちは社会の中で「見えない」存在になっている。(pp.171)

性風俗で働く女性の中には、住所不定状態の人が少なくない。(pp.42)

性風俗店で働く女性の中で、きちんと確定申告をしている人は少数派である。(pp.88)

そのため性風俗の女性たちには国や自治体へ支援をもとめにくい状況があったのです。

風テラスの存在意義は非常に高いと感じました。

性風俗業当事者のみなさまの確固たる支えになっている団体であることは疑いようがありません。

ご活動をいっそう充実させる目的のもと、風テラスが「クラウド・ファンディング」にて資金調達をおこなったところ、目標額600万円を超え「343名の支援者の方から、合計632万6千円(pp.193)」があつまりました。

社会から評価されている事実の裏づけでしょう。

最澄(766?~822)の言葉「一隅を照らす、これ則(すなわ)ち国宝なり」を思わずにはいられませんでした。

ところで、風テラスのスタッフは「弁護士とソーシャルワーカー、臨床心理士、医師(pp.99)」みたいです。

『性風俗サバイバル』書中、「税金も国民健康保険料も年金も一切払っていない(後略)。(pp.115)」という人々が幾度も登場し、わたしは彼女たちが将来老齢年金を受給できるのかどうか心配になりました。

社会保険労務士の先生をスタッフに加えるご必要があると考えます。

金原俊輔

前の記事

最近読んだ本423

次の記事

最近読んだ本425