『リバランス:米中衝突に日本はどう対するか』、エズラ・F・ヴォーゲル著、ダイヤモンド社、2019年。

非常になつかしいお名前です。

わたしと前後する世代の人ならば、だれもがヴォーゲル氏(1930年生まれ)のことをおぼえているでしょう。

昭和時代、氏がお書きになった、

『ジャパン・アズ・ナンバーワン:アメリカへの教訓』、阪急コミュニケーションズ(1979年)

が、一大ベストセラーとなりましたので。

タイトル「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は「ナンバーワンである日本」という意味です。

もともとはアメリカ人読者を念頭に執筆された啓蒙書だったのですが、和訳され、日本社会で上を下へのベストセラー騒動が生じました。

当時の日本人たちは(わたしも含め)「えっ、かのアメリカ合衆国がわが国をお手本にすべき? 俺らって、そんなにすごいの?」的な感慨をいだき、自信を得たものです。

ヴォーゲル氏はハーバード大学教授であり、東アジア情勢を専門とする社会学者。

爾来、中国寄りになられた旨の噂を聞いていましたが、ひさしぶりに本邦を意識した書物を出版されたわけです。

『リバランス』は、加藤嘉一氏(1984年生まれ)がヴォーゲル氏に質問し、ヴォーゲル氏が回答する、という構成でした。

89歳のご高齢でいらっしゃるのに、長時間にわたり丁寧な受け答えをなさっています。

日本人の礼儀正しく、規律やルールを重んじる国民性は世界中から尊敬と羨望を集めている。(pp.93)

こういう『ジャパン・アズ・ナンバーワン』のコメントと見間違うような文言も入っていました。

そして読了。

わたしの読後感は「やや中国に甘い、おなじく習近平国家主席にも甘い」でした。

今後5~10年は、習近平ならびに中国共産党にとって難しく不安定な時期になるだろう。(中略)
ただ、それでもいわゆる「崩壊」を招くような動乱を、習近平は簡単には起こさせないであろう、というのが私の基本的な判断である。(pp.21)

引用どおり、遠慮がちなご意見が少なくなかったと感じます。

そうはいっても、さすがに研究者、客観的・社会科学的な姿勢を大きく崩されてはいません。

2017年の時点で、中国の農村人口は5億7661万人で全人口の41.48%を占める。ちなみに中国で有名な指標である都市化率は1996年の時点では30.48%だったのが2016年で57.3%にまで上昇している。(中略)
仮に今後、人工知能やロボットが急速に発展したとして、現時点でいまだ5億人以上いる農民、そして農村から出てきて都市部で出稼ぎ労働者として働く農民工約2.8億人は、一体どこに行ってどう働くのか。(pp.38)

日中間における草の根交流や国民同士の接触は、確実に増えている。2017年にはのべ736万人、2018年にはのべ838万人の中国人観光客が日本を訪れるまでになった。2018年には李克強首相の訪日と安倍首相の訪中という相互関係が実現し、2019年にはG20のため習近平主席が訪日した。日中関係・交流は困難な時期を経て再び正常な軌道に乗った感がある。(pp.153)

種々のデータ・数字を脳内にインプットされている模様でした。

副題「米中衝突」や「日本はどう対するか」に関しては、当然ながら腰を据え、じっくり解説なさっています。

第2章にあった「米中両国の狭間で、橋渡しの役割を果たすという意識と行動は、日本の将来の国益とゆくえを左右し得る世紀の課題である(pp.100)」が結論でしょうか。

わたし個人の感覚に訴えかけてきたのは、以下の文章でした。

1980年代後期の日本は、かなり傲慢と感じた。その後バブル経済は崩壊し、今となっては、日本人はかなり謙虚になっている。昨今の中国を見ていて、私はその頃の日本をしばしば思い出す。今の中国は傲慢すぎる。米国、欧州、日本、東南アジア諸国など世界各地で権力や組織力を横暴に行使している。謙虚さに欠ける行動が目立っている。(pp.46)

中国の件はさておいて、わたしは「1980年代後期」よりアメリカに住みだしたので、あのころの日本人の傲慢さを記憶しているのです。

ハリウッドに資本投下、名門ゴルフ場を購入、エンパイア・ステート・ビルも所有、とにかく好き放題にやっていました。

いまは改善しているみたいですから、日米両国民のために良かった、と安堵いたします。

最後に、英語版『Wikipedia』の情報では、ヴォーゲル氏は米国オハイオ州のオハイオ・ウエスレヤン大学卒業生でいらっしゃる由。

初耳です……。

2019年3月まで長崎ウエスレヤン大学に勤務していたわたしにとって嬉しい事実でした。

金原俊輔