最近読んだ本324

『本屋を守れ:読書とは国力』、藤原正彦著、PHP新書、2020年。

わたしはむかし、

藤原正彦著『若き数学者のアメリカ』、新潮文庫(1981年)

を読みました。

渡米を計画中だった時期でしたので、差しせまった必要性が背景にあって、眼光紙背に徹したことをおぼえています。

その後、ずっと著者(1943年生まれ)の作品に接する機会はなく、今回がひさしぶりでした。

なによりも外題。

個人的に、街のリアル書店が経営面で傾きだした雲行きを衷心より憂いているため、大賛同して買い求めました。

わたしにとって「楽しみは休日の書店めぐり」「趣味は読書」ですので……。

しかしながら、書中「本屋さん」が語られた箇所は、

読書傾向の右肩下がりは、インターネットの一般への普及と時を同じくしています。この時期から本や雑誌が突然、売れなくなる。そして書店数が半分以下になり、取次が次々に倒産するという現状に至るわけです。(pp.57)

日本人の書店離れ、本離れは国家にとって致命的です。(pp.98)

など、ごくわずかでした。

ほかは読書論ばかりです。

第1例目。

スマホの最大の罪はまさにこの一点、「読書の時間を奪っていること」に尽きます。あるいは「孤独になる時間」を奪っている、といってもよい。
人間の深い情緒は、孤独な時間から生まれます。暇や寂しさを紛らわせるため、スマホゲームに没頭し、LINEやメールのやりとりでせっかくの孤独な時間を台無しにされてしまう。(pp.46)

第2例目。

黙って本を読む、ただそれだけのことが大人も子供もできなくなっている。最低限、小・中・高校ではスマホの所持を禁止、あるいは電話機能しかないものに制限すべきでしょう。(pp.54)

第3例目。

いずれにせよ紙の本のように、自然なかたちで私たちの思い出を引き出し、高次の情緒を育んでくれることはありません。手紙とケータイメールとの本質的違いも同様です。(pp.102)

こうしたご意見の目白押しで、ご意見自体には自分自身も共感する部分がありましたから、書店の苦戦がほとんど考察されなかった事実は「まあ、やむなし」としましょう。

できれば、本の熟読によって人の思考回路がつくられ、注意力も育つ、といった学術的情報が豊富な、

メアリアン・ウルフ著『プルーストとイカ:読書は脳をどのように変えるのか?』、インターシフト(2008年)

上記レベルの内容でしたら、もっと嬉しかったです。

そして『本屋を守れ』における当方の最大の違和感は、女性にたいする著者のご発言が不穏当であったこと。

幾度もしつこくそんな発言が登場します。

わたしは読みつつ愉快でありませんでした。

この種の発言を連発するかたには「品格」が足りないのではないか、と訝(いぶか)りさえしました。

金原俊輔

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