最近読んだ本325

『「新型コロナ恐慌」後の世界』、渡邉哲也著、徳間書店、2020年。

新型コロナウイルス・パンデミックの渦中にある2020年4月現在、上掲書みたいな出版物を待ち望んでいた人は多いでしょう。

わたしは待っておりました。

当該パンデミックがいつ収束するか分らず、いつの日にか収束したとして、そのとき我が国や諸外国がどうなっているのやら見当もつかないためです。

本書では、こうした状況下、おもに世界と日本の政治経済の行く末が語られました。

知識十分な著者(1969年生まれ)ですが、たぶんあわてて書き上げたのではないでしょうか、新型コロナウイルスの悪影響とは何の関係もない話題が随所に顔をだします。

とはいえ役立つ内容でした。

たとえば、中国に関しては、

折からの米中貿易戦争に加え、新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の悪化と、世界のサプライチェーンから中国を切り離す動きが加速している。(pp.55)

なのだそうです。

中東へ目を向けた場合、

中東におけるアメリカのプレゼンスは、今後、ますます小さくなっていく可能性が高く、新型コロナウイルスの流行がそれをさらに加速する恐れがある。そうなれば、中東でよりいっそうの混乱が生じることになる。(pp.247)

らしく、危惧いたします。

日本では、

安倍首相が指揮をとるようになったからといって、新型コロナウイルスの感染を直接、防止できるわけではないが、政治的には大きな意味があり、行政も大きく動きはじめることとなった。安倍首相は途中までは退陣後の権力移譲に向けて、菅官房長官や各大臣などに対応をまかせてきたが、彼らにはまかせられないということが明確になったのだろう。(pp.229)

真偽のほどは定かでないものの、こんな裏情報みたいな話すら書かれていました。

「たしかに」と感心した文章は、

いちばんの問題は、日本のテレビ、メディア、新聞社がアメリカの法律の存在をほとんど報じないことだ。それでいて、「トランプがああ言った、こう言った」ということばかり報じるから、国民のほうも振りまわされるわけだ。メディアは、少なくとも法律に書いてあることくらいは、国民にちゃんと伝えるべきだろう。(pp.127)

おっしゃる通りです。

わたし自身にも欠けていた視点でした。

ところで、本コラムの冒頭ちかく、わたしは新型コロナウイルス・パンデミックによる今後の世界の変容が「見当もつかない」と書きました。

ただし、心理学者として予測する流れはあります。

住民の外出自粛や、映画館、ライブハウス、スポーツジムなど、多くの人が集まる施設に使用制限をかけるために、(後略)。(pp.146)

上記は致しかたがない対応策なのですが、外出自粛(もしくは外出規制)だの「休校措置」だのによって、少なからぬ老若男女に「感覚遮断」のしわ寄せが発生するだろう、ということです。

感覚遮断とは、1953年ごろ、カナダのマギル大学でドナルド・ヘッブ教授(1904~1985)らがおこなった心理学実験。

健康な男子大学生たちを「見えない」「話せない」「聞こえない」「さわれない」「動けない」……つまり刺激が乏しい状態に置き、彼らが働かせるべき感覚を減少させてみたところ、学生は苦しみだし、あまつさえ精神の不調も生じた、旨の報告がなされました。

精神の不調。

イライラ感、気分の落ち込み、無気力、注意力の低下、思考力の低下、幻覚、などです。

外出規制や休校はマイルドとはいえ感覚遮断であり、それに起因して、人々が「情緒不安定」「抑うつ」「SNSトラブル」「口論・暴言」「暴力」「夫婦喧嘩」「児童虐待」「アルコール依存」「スマホ依存」「ゲーム依存」へ至るはず、と想定します。

心配です。

防止するには、勉強、スマホの使用制限、家事手伝い、テレワーク、体操・筋トレ、電話での他者との会話、読書、図画・工作、音楽鑑賞、ペットの世話、認められる範囲内でのショッピング、等々を励行することが肝要と思われます。

金原俊輔

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